狩人話譚

□ ボクとワカ旦那さん[1] □

ボクとワカ旦那さん【5】

 バルバレを拠点にした日、ワカ旦那さんはたまたま集会所の食事で相席になった二人のハンターとグループを組んだ。

 一人はテツカブラの装備を身に付けた四十歳ぐらいのガタイの良いおじさんのハンター、【ハビエル】さん。松葉色の髪の毛を束ねた落ち着いた人。ワカ旦那さんよりだいぶ年上だったのでベテランのハンターかと思いきや、実はまだハンターに成り立てらしい。だけどハンターになろうと決意したきっかけはとても辛いものだった。
 ハビエルさんが住んでいた街はモンスターに襲われて崩壊してしまい、奥さんや子どもを亡くした。ハビエルさん自身も大怪我を負ったものの生き残ったとか。そんな辛い過去を経てハンターになったそうだけど、荒々しい職業とは裏腹にハビエルさんはとても穏やかで優しい人だ。
 元々はお肉屋をやっていたそうなので、料理にとっても詳しい。対してワカ旦那さんは全く料理ができず(モンスターの解体はできるみたいだから忘れたとは言いがたい)、チコ村にいた頃から魚を焼くか三枚に下ろすことしか知らなかったので、ボクも煮込んだり揚げたりと初めての調理方法でハビエルさんの手料理を美味しくいただいている。
 そんなハビエルさんの武器は【スラッシュアックス】。斧と剣、二つの姿を持っている武器。ワカ旦那さん曰く、切断の力にとても優れていてモンスターによっては脅威となる尻尾を斬ることにより狩猟が有利になるとか。武器で防御態勢をとることができない上に、斬る力がほとんど無い狩猟笛にとって頼もしいらしく今度扱い方を教えてもらおうかな、なんて言っているけど料理のことも教えてもらうべきだとボクは思う。

 もう一人は女の人。ゲリョスの素材でできた防具と小麦色の肌、水色の髪を耳の横で結んでいるのが特徴の【エイド】さん。ワカ旦那さんよりは年下みたいだけど、比較対象のワカ旦那さんの記憶が無いので本当の年齢差はわからない。ちょっと訛っているのもまた特徴で、ワカ旦那さんがパニックになった時に喋るものとは違うので別の遠い国の出身なのだろうか。
 エイドさんはハンターの家系の人だった。だから家族に倣ってハンターになったみたいだけど、エイドさんはスラッシュアックスみたいに二つの顔がある。初めて会った時は大人しい女の人という印象だったのに、いざ狩りとなると血気盛んに獲物である操虫棍を振り回し、相棒である猟虫の【マルちゃん】(本当は【マルドーレン】というらしい)を的確に操る。言葉遣いも女の人とは思えない粗暴なものに変貌したのでワカ旦那さんもハビエルさんも面食らったとか。
 だからこそエイドさんは誰ともグループを組もうとしなかったそうだけど、どうしてワカ旦那さんとハビエルさんと一緒に行動しようと思ったのかというと、たまたま鉢合わせた時に三人揃ってほっぺたに模様が付いていたからだそうだ。そこから親近感が湧いてグループを組んだ、という即興的な理由にボクは唖然としたものだけど、案外三人のチームワークは良く、ワカ旦那さんの笛の援護を受けたエイドさんがモンスターに乗り上げ、背への攻撃に耐えられなくなってダウンしたモンスターにハビエルさんが強烈な一撃を与えるコンボが完成したとか。
 エイドさんも二人とすっかり打ち解けたみたいで、ワカ旦那さんに『ワカにいちゃん』と親しみを込めて呼んでいるけど相棒のマルちゃんもワカ旦那さんに寄ろうとするので、虫が苦手なワカ旦那さんは困り顔だ。どうやら猟虫は駄目だったみたいだ。

 三人で狩るスタイルが確立して二人のオトモアイルーと一緒にモンニャン隊に出ることが増えたボクに楽しそうに狩りの成果を話してくるワカ旦那さんは、とても生き生きしていた。そんな様子を見て、やっぱり元々は誰かと一緒に狩りをしていたんじゃないかと思う。そう確信できたのは、ハビエルさんやエイドさんからワカ旦那さんの狩猟中の立ち回りについて教えてもらったことがあったからだ。

「ワカにいちゃんな、アタシがモンスターに狙われた時咄嗟に角笛を吹いて狙いをそらしてくれたんよ。なんで角笛なんか持ってたん?って聞いたら狙われている仲間からモンスターの気をそらせるために持ってた、って言うとった」
「おっさん(ハビエルさんは子どもに言い聞かせるように自分のことを“おっさん”と呼んでいる、お父さんだった名残だろうか)が驚いたのは、ワカ君がモンスターの足元で狩猟笛を吹いた時だったね。てっきり見つかりにくいよう離れて吹くものだと思っていたけれどれているとかえってモンスターの気を引いて動きを仲間に読み辛くさせてしまうから、と教えてくれたよ」

 狩りの記憶だけは身体にしみ込んでいるワカ旦那さんの、ボクと一緒の時とは違う動き。今まで角笛を狩りに持ち込んだことは無かったし、狩猟笛の演奏もモンスターが目を回していたり疲れていたりする時以外は基本的にモンスターが移動をしたのを確認してからだった。
 無意識の内に仲間との連携がとれるということは、そういう経験があるということだ。二人と連携が取れるのはとっても良いことだけど、ワカ旦那さんと一緒に狩りをしていた仲間からすれば複雑なんだろうなと思ってしまう。
 仲間といえば、前にチコ村に訪れた仲間を捜していたハンター達とはここへ来てからも一度も会っていない。集会所を訪れるハンターの数はとっても多いし、狩りをして新たな装備に身を包めばだいぶ様変わりしてしまうからかなと思っている。特に男の人は兜で顔を全部覆ってしまうものが多いので(ワカ旦那さんみたいに暑苦しいからと狩りの時以外は外している人もそれなりにいるけど)、外見だけで見分けるのは困難。だから、彼らに会えないのは仕方の無いことだった。
 今となっては、それを悔いるべきだったのかもしれないけれど。



 狩りから戻った三人をボクらオトモアイルーが集会所に迎えに行って、あとはそれぞれの家に戻って休もうという時だった。家に戻る前にちょっと買い物をしたいと言ったワカ旦那さんにボクも付いて行こうと思ったけど、すぐに終わるからと言われたので二人のハンターとオトモアイルーと一緒に帰路に着くことにする。
 今日はポポノタンを焼いて食べることをハビエルさんが提案して賛成!とエイドさんが喜ぶ。二人のオトモアイルー、【テッカ】と【エール】も喜んでいたけど、のんびりお喋りしながら歩いているボクらに追いついてこないワカ旦那さんが気がかりだった。マイペースなワカ旦那さんなのでこういうことはよくあるから心配するだけ損かな、と思い直してボクもポポノタンの噛み応えのあるあの肉厚なお肉を想像して心を弾ませることにした。
 家といってもテントだけど、そこに着いてもワカ旦那さんは来なかった。流石にこれはおかしいと不安になっているとハビエルさんもエイドさんもそう思っていたようで、歩いてきた道を振り返っている。

「ワカ君、遅いなあ。買い物といっても調合用の道具や砥石ぐらいだろうに」
「うん、どしたんやろね? なあ、マルちゃん」
「ちょっと引き返そうか。モーナコ、君も来るかい?」

 ハビエルさんに言われ即座に頷いて意を示す。少しお節介なところもあるから、誰か困っている人を助けているのかもしれない。通りかかる人にガララ装備の黒土色の髪のハンターについてハビエルさん達が尋ねていると、それらしき人が集会所へ向かったと教えてもらった。集会所にも確かに売店はある。だけど街の中にもお店はあるのに、どうしてわざわざ集会所へ戻ったのだろうか。全身の毛がざわざわと嫌な予感を伝えてきた。

「ハビエルさん、エイドさん、すぐに集会所へ行きましょうニャ」
「う、うん」

 ボクがあまりにも硬い表情と声をしていたからか、エイドさんを驚かせてしまった。二人はワカ旦那さんが一人で天空山へ行ってジンオウガに襲われたことは知らない、教えていない。しっかりしている、と村長さんは言っていたけどワカ旦那さんが結構ドジな人なことは、ボクが一番よく知っている。トラブルに巻き込まれていなければいいんだけど。

 集会所に着き、すぐにハチミツ色の鎧を捜す。だけどボクの背丈では捜す前に人に埋もれてしまう。ハビエルさんとエイドさんも一生懸命人の群れからワカ旦那さんを捜そうとしてくれていたけど、それでもがやがやと賑わうハンターの中からはなかなか見当たらない。
 その時、聞き覚えのある声が遠くから偶然聞こえてきた。

「本当にお前なのか? 頬にペイントなんかしちまって。それにその目の色、そんなに明るかったか?」
「あの時は目を隠すように前髪を伸ばしていたからな。長いこと俺達も見ていないから仕方が無いだろうが……だが、いつの間に切ったんだ?」
「それが……俺もよくわからないんだ。気が付いたらバルバレにいて、つくったことも無いガララ装備を着ていて、前髪は切られて隠せないし、しかもあれから一年が経過してるなんて意味がわからなくて、怖いよ……。」
「しっかりして、大丈夫よ。私達がいるから不安にならないで、【ジン】」

 声の方向へまっしぐらに駆け抜けると、確かにそこにワカ旦那さんはいた。
 あの時の若いハンター達三人と一緒に。



 ワカ旦那さんの本当の名前を呼んでいたハンターたちは、防具はそれぞれ変わっていたけれど背負っている武器の種類は変わっていない。片手剣のハンターはリオレイア亜種の、太刀のハンターはジンオウガの、ガンランスのハンターはグラビモス亜種の防具を身に付けていた。
 その三人に囲まれるようにワカ旦那さんは立っていたけど雰囲気がどこか頼り無さそうで、まるで親に見つけてもらった子どものように弱々しく見えた。

「ワカ旦那さん!!」

 三人は叫びながら走り寄るボクの顔を見てハッと驚いた顔をしていた。一度しか会っていないけど、あの時ワカ旦那さんがいないとバレバレの嘘をついたから印象に残ってしまっていたのかもしれない。

「お前は、確かチコ村にいたメラルーか?」

 太刀のハンターがボクの顔をまじまじと見る。顔の傷はあれから増えていない。青い瞳の生命力の強さもまた変わっていなかった。オトモアイルーのボクがいるというのに、ワカ旦那さんの視線は三人のハンターとボクの顔を行き来している。片手剣のハンターがワカ旦那さんの肩を軽く叩くと、オドオドしていた視線が縋るように片手剣のハンターに向けられた。

「ねえ、ジン。この子は君の……」
「え? どうしたの【ミサ】姉」

 全く返答になっていないワカ旦那さんの言葉に身体が凍ったように固まってしまった。ワカ旦那さんはボクを見ずに片手剣のハンターだけを見ている。
 片手剣のハンター、【ミサ】さん。原生林を出る前の最後の狩猟で、ワカ旦那さんは言っていた。村を出ようと船に乗る寸前だったこのミサさんと目が合った、と。でも何も覚えていないワカ旦那さんにはただのハンターにしか見えず、またミサさんから何か接触があったわけでも無かった。
 それなのに、本当は知り合いだったのだ。それも、『姉』と呼ぶほど密接な間柄で。ジンオウガに襲われて名前を思い出した時とは全く違う。ワカ旦那さんは、仲間達のことをしっかりと思い出している。けれど、今度はボク達のことを……?

「どうした、って……お前のオトモアイルーではないのか、ジン」
「【リウ】兄まで何を言うんだ? 俺にはオトモアイルーなんていないよ。今まで雇ったことが無かったじゃないか」
「ワ、ワカ旦那、さ……」

 胸が苦しい。言葉が途切れ途切れになってしまう。ボクの背後に立っているハビエルさんもエイドさんも、ショックを受けているのか何も喋らない。ただただワカ旦那さんの変貌ぶりに呆然とするしかなかった。

「ジン、オレの名前を言えるか」
「うん。【フェイ】兄だろ? ちゃんと覚えているよ、皆の名前」

 ガンランスのハンター、【リウ】さんに続いて今度は太刀のハンターがワカ旦那さんの肩を強く掴んで問うと、さも当然のように太刀のハンター、【フェイ】さんの名前を答えた。三人のハンターを兄、姉と呼ぶということは彼らは兄弟だったのだろうか。それにしては全員の容姿がかなり異なっているので、もしかしたら義理の兄弟なのかもしれない。
 先ほどからワカ旦那さんの動作が幼く見えるのも、記憶を取り戻すと性格まで戻ってしまったからだろうか。だとすれば、これが本当のワカ旦那さんの性格?混乱する頭でそんなことを考えているとそれじゃあ、とフェイさんは深刻そうな顔で目線をボクの方へ移し、ワカ旦那さんの視線を促す。

「そこのメラルーは、覚えているか」
「…………?」

 ハチミツ色の目がボクを見下ろす。だけど視線が交わったのはほんの数秒で、ワカ旦那さんは逃げるようにすぐに目線をずらしてしまった。まるで人見知りをしているかのように。俯いたまま、ワカ旦那さんは悩ましげに首を振る。

「……知らない。わからないよ、フェイ兄」
「ジン、お前まさか……!?」
「わからないんだ。このメラルー……俺と何か関わりがあるのか?」

 ぎゅう、と胸が一層苦しめられた。
 ワカ旦那さんは記憶を取り戻した代わりに、完全にボクらのことを忘れてしまったのだ。チコ村に流れ着いた頃からの記憶を、全て。今度こそボクの勘違いなんかじゃない。覚悟を決めていたことが、今現実に起こっている。

「ワカにいちゃん、どうしたん!? アタシだよ、エイドだよ! マルちゃんも、おっちゃんのこともみんな忘れたん!?」
「しっ、知らない……! 手を、離してくれっ」

 泣き叫ぶようにエイドさんがワカ旦那さんの腕を掴むけど、驚いてその手も振り払ってリウさんの傍に身を寄せる様子は完全に別人だった。
 人見知り……そうだ、チコ村の村長さんが言っていた。三人が出した特徴の一つが、『人見知りをする性格』だった。今のワカ旦那さんはチコ村に流れ着く前のワカ旦那さんなんだ。まさかワカ旦那さんがこんなに弱気な人だとは思わなかったけれど。
 エイドさんの悲しそうな表情に同調するようにマルちゃんがワカ旦那さんの腕に飛びつく。まるで思い出して欲しい、と言いたげだった。あ、でもワカ旦那さんは虫が苦手だからこのままじゃ……。

「ん……操虫棍の、虫?」
「ワ、ワカにいちゃん……マルちゃん、怖くないん?」

 虫を見ても、驚かない。
 口調がおかしくなってパニックを引き起こす程の虫を見ても、至って普通に接している。しかもマルちゃんを腕から離すとボクの知っているワカ旦那さんなら絶対にしないであろう顔や身体をじっくりと観察する行動までとった。

「マルドローンか。お前も操虫棍は何度か練習したことがあったな」
「うん。でも俺にはやっぱり狩猟笛が一番だったよ」

 リウさんと親しげに話すワカ旦那さんは、三人のハンターと家族のような空気を醸し出していた。そんな光景を眺めている内に、気持ちが落ち着いてきた。
 そうだ、これが本来あるべきワカ旦那さんの姿だったんだ。記憶を取り戻して仲間のところへ戻ることができた、最高の結果じゃないか。ゆっくりと足が後ずさる。そして、踵をくるりと回すとワカ旦那さんに背を向けて歩き出した。

「あっ、モーナコちゃん……!」
「待って」

 ボクを呼び止めようとするエイドさんの声を遮るようにミサさんの鋭い声が聞こえたけど、そのまま集会所を出てしまったのでその後の会話はわからない。
 ただ、これで本当にお別れだと覚悟を決めたらもうあの人たちと関わる必要は無いと思った。不思議と、悲しくも悔しくも寂しくもなかった。



 気が付けばワカ旦那さんと共に過ごしたテントにいた。モンスターを狩って手に入れた素材でつくった色んな狩猟笛や、調合して作り置きした薬、角笛がたくさんある。だけど、ここに家主が戻ることはたぶん無い。『たぶん』というのはせいぜい道具を回収するぐらいしか思いつかないけど。
 背後に気配がしたので振り返ると、ハビエルさんとエイドさんがいた。エイドさんにいたっては目が赤い。ずいぶんと泣いてしまったみたいだ。ボクを心配して来てくれたのだろうか、そうだとしたら申し訳ない気持ちになる。

「あれで良かったんですニャ。ワカ旦那さん、ううん、ジンさんは仲間の所に帰れたからもう寂しくないですニャ。ボクのところにいるよりずっとずっと幸せになれますニャ」
「そんなわけ無いやん!」

 涙声のままエイドさんがボクを抱きしめる。彼女と同じようにマルちゃんも、オトモアイルーのエールもボクに抱きついてくれた。みんなの温もりがとても優しく感じられて、心がぽかぽかしてくる。ほんの少し一緒に狩りをする生活を送っただけなのに、どうしてこんなに優しくしてくれるのだろう。

「ワカにいちゃん、狩りの時いつも言うとったんよ。ナコの回復笛があると狩りがすごく楽になる、とかあいつを湯たんぽ代わりにすると温かい、とかお尻の傷跡が今でも心配だ、とか、すっごくモーナコちゃんのこと大事にしてたのに……なのに……!」
「エイドさん……。」
「モーナコちゃん、ワカにいちゃんもしかしたらあのままかもしんないけど、良かったらアタシのオトモになって。いつかワカにいちゃんがモーナコちゃんのことを思い出すまで、一緒にいようやん!」

 ハンターは一人で狩りに行く時オトモアイルーを2匹まで連れて行くことができる。だけど自分の生活費にオトモアイルーの分も加えるので、二匹以上を雇っているハンターは単独狩猟が主で生活に余裕が出てくるぐらいの力量でない限りそうはいない。エイドさんに迷惑をかけてしまうのではないかと、ボクは首を横に振る。するとハビエルさんがボクの頭に優しく手を置いた。

「おっさんも二人の生活を支えるよ。きっとワカ君は戻ってくる、だからそれまでの間はここにいてほしい」
「ハビエルさんまで、どうして……」
「さっき、ワカ君の仲間のハンターとギルドカードの情報交換をしたんだ。これでギルドを通せば連絡がしやすくなる。ワカ君は彼らに任せることにしたけど、何かあればすぐに連絡を入れてくれるそうだ」

 どうやらミサさんがエイドさんを止めたのはこのことらしい。多くの人が行き交う集会所で運任せに合流するのは難しいので、ギルドに通達しておけば連絡はとりやすい。ただし、それは情報の交換を許し合えるとお互いに認められる場合だけだ。
 あの人たちにとって捜していたワカ旦那さんが帰ってきたのだからこれ以上ボクらと関わる必要は無いはずなのに、どうしてボクらと接触しようと思っているのだろうか。

「彼らもまた君のことを心配しているんだよ、モーナコ。理由はわからないが、彼らはもしワカ君の記憶が完全なものになったらまた君のところへ連れて行きたいと言っていたんだ」
「本当に、迷惑かけてばかりですニャ、ワカ旦那さん」
「アタシもおっちゃんも、ワカにいちゃんのこと大好きだからね。モーナコちゃんもでしょ?」

 エイドさんがボクの頭を撫でてくれた。ああ、エイドさんってばほっぺたをこすったせいでせっかく描いた模様がぐしゃぐしゃになってしまっている。辛いのなら泣いてもいいんだよ、とハビエルさんは言ってくれたけど、何故かボクの目から涙がこぼれることは無かった。ボクが泣いてしまうとしたら、ワカ旦那さんが戻ってきてくれるときか、もしくは本当の意味で『お別れ』をしなくてはならないときかもしれない。

 でも、今のボクにはどちらも願ってはいけないことだった。
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