狩人話譚

□ ボクとワカ旦那さん[4] □

ボクとワカ旦那さん 終【3】

 ボクは今、ワカ旦那さんの本拠地である村に向かう荷車に乗っている。氷海に向かう道を通っていて、ずっと遠い先には雪に覆われた山々が見えた。

「今の拠点はバルバレから少し離れた土地にあるんだ。俺自身寒さに強いこともあって、寒冷地を中心に調査をする書士隊に配属された。護衛のハンターも同じく寒い地域の出身で編成されているよ」
「どんな人たちですニャ?」
「大剣を使う俺と同じ歳くらいの男と、ヘビィボウガンを使う女の子だ。お前のことも話してある。会うのを楽しみにしてくれていたよ。アイルーもいるし、拠点に必要な設備は一通り揃ってある。寒い場所にあるけど、賑やかだぞ」
「そうなんですニャ、楽しみですニャ」
「お前も今後俺と同じように護衛ハンターと一緒にオトモアイルーとして活動したり、時には書士隊と行動を共にすることになる。忙しくなるけど、頼んだぞ」
「もちろんですニャ!」
「はは、久しぶりに聞いたな。その元気のいい返事」

 ワカ旦那さんは、ガーディアンの防具から【フルフル】の防具に着替えていた。どうやらこれがハンターとしての姿らしい。バルバレで見るデザインではないので、あちらの地方のデザインなのだろうか。口元を覆う縁の赤い白マスクを見て、このデザインにしたのはほっぺたの傷を隠す理由もあるのかもしれないと思った。
 狩猟笛もフルフルの素材を使ったもので、亜種の素材も使ったのか赤い布でぐるぐる巻きにされている。笛の先はフルフルの大きな口のようで不気味だけど、そんな外見に反して美しい女性の歌声のような音色が奏でられるらしい。同じ雷の力を持つかつての愛用武器【王牙琴】とは違う旋律を持っていて、それらは生存能力を高める性質を持っているので仲間を援護するために持ち替えたそうだ。
 そして、ボクもティガネコ防具から用意された【マフモフネコ】防具に着替えた。鎧というより衣服に近い出で立ちになったけれど、ボクもオトモアイルーでありつつ書士隊のお手伝いをすることもあるから軽装の方が向いているのだろう。
 顔を見上げると、ワカ旦那さんと目が合った。ハチミツ色の目はもう逃げない。だけどやっぱり気にしてしまう、マスクの下の傷跡。その原因を墓地から戻る途中に教えてもらった。

「知りませんでしたニャ。【千刃竜】なんてモンスターが現れているなんて」
「原生林はバルバレから離れた島にあるからな。いくら飛竜種でも、そっちにまで移動することが無くて良かった。きっとチコ村が大パニックになってしまうだろうから」
「ニャ……でもその傷、もう消えないんですニャ?」
「たぶん、そうだろうな。【裂傷】……まさかあんな酷いことになるなんて思わなかった」

 ほっぺたの傷は最近バルバレ近辺を中心に目撃されている珍しいモンスター【千刃竜セルレギオス】によってつけられたものだった。そのモンスターの攻撃によってつけられた傷は、動けば動くほど開いて一層深く刻まれてしまうらしい。
 ワカ旦那さんは、ほっぺたにその傷をつけられた状態で旋律を奏でてしまった。裂傷の脅威から仲間を守るために【精霊王の加護】を奏でた結果、ほっぺたに穴が開くほど深く傷が裂けたと聞いた時はボクの背筋にぞわぞわと嫌なものがはしった。傷は頬骨までついていて、下手をすれば目に到達してしまっていたかもしれないと思うと、気が気でなかった。

「だけど、裂傷は精霊王の加護で守れることがわかったのは大きいかな。加護も必ず発動するわけじゃないから、多少運が絡むけど。あいつがたまたまそれを証明してくれたから良かったよ。あとフルフェイス推奨。素顔が出てると酷いことになる」
「ちっとも良くないですニャ! よりによって旋律を吹いたのが傷を負ってからなんて……仲間のハンターさんにも迷惑をかけたはずですニャ」
「ああ、存分に怒られたよ。動けない、喋れない、食べられない、三重苦のところに追い打ちをかけるようにさ。その後は甲斐甲斐しく看病してもらったけど」
「やっぱりワカ旦那さんはボクがいないとダメですニャ。無茶をしてしまうから」
「はははっ! そうだろうな。俺はお前と一緒で初めて力を発揮できるって実感したよ」
「これからは、ボクがワカ旦那さんを守りますニャ」
「ああ、期待してる」

 ワカ旦那さんが外の景色を確認した。心なしか少し空気が冷たくなってきた気がする。まだ雪は見られないけれど、少しずつ寒い地域に近づいてきている。
 調査対象になっている場所は、ボクが行ったことのある【氷海】だけではないらしい。つまり、ボクにとって新しい世界がまだまだ広がるということ。
 同じ雪と氷に包まれた場所でも、景色や植物、モンスターなどたくさんの違いがあるのだろう。そう考え出すと好奇心が止まらない。そんなボクの様子に気が付いたワカ旦那さんが、笑いながら頭を撫でる。

「これからもよろしくな、【相棒】」
「ハイですニャ!」

優しく声をかけるハチミツ色の瞳に、ボクは精一杯の返事をした。




ボクのワカ旦那さんは、不思議な人。

一度は襲いかかったメラルーのボクを助けてくれた。

しかも、記憶喪失だった。

ジンオウガに襲われて名前を思い出して、

やがて全部を思い出したらちょっと元気が無くなって。

でも全てを打ち明けて、悲しみを乗り越えて。

そして自分の力で運命を切り開くことを決めた。

ボクはそんなワカ旦那さんについて行く。

恩返しとかそんな理由じゃなくて、

ボクはワカ旦那さんが大好きで、これからも一緒にいたいから。

ワカ旦那さんの【相棒】だから。




薄いハチミツ色の毛並みをしたメラルーのボクと、

濃いハチミツ色の目をしたハンターの1年間の物語は、これでおしまい。

だけど、ボクとワカ旦那さんのつくる道は、新しい仲間と共にこれからも続いていく。

いつまでも、どこまでも。







ボクとワカ旦那さん おしまい。
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