狩人話譚

□ ボクとワカ旦那さん[4] □

ボクとワカ旦那さん 終【1】

 いつの日からか、原生林の柱のてっぺんで角笛を吹くことが日課になった。どこかで誰かのために笛を吹いているワカ旦那さんを励ますために。一人で頑張っているワカ旦那さんに1人じゃないことを伝えるために。……ワカ旦那さんとの絆を断ち切らないように。
 その頃だっただろうか。よく知る人たちがボクの元を訪れるようになったのは。



 やあ、モーナコ。顔を合わせるのは本当に久しいね。トラ君かい?原生林の昆虫が気になるみたいだから、奥の方へ向かったよ。その内こちらにも来てくれるさ。
 さっきの角笛の音色はモーナコのかな?そうか、商品にならないちょっとした不良品の角笛を格安で購入しているのか。少し傷が付いていたり笛の形が悪いだけで、音色には全く問題は無いように聞こえたよ。
 なにより、音色がワカ君の角笛にそっくりだった。音が汚い?そんなことは無いよ。力強い、芯の通った音だ。まるで大地に強く根付く大樹のようだった。ワカ君に付けられた二つ名、知ってるかい?【大地の旋律】というんだ。大地の息吹を感じさせる力強くも優しい旋律でハンターを支えるから、ってね。
 ワカ君にはたくさんお世話になったな。調合のことや採取のこと、モンスターのこと、初心者だったおっさんに多くの知識を教えてもらったよ。おっさんも料理などを教えたけれど、今頃うまく自炊ができるようになっていればいいね。
 ギルド?お肉のギルドのことかな。あちらでも頑張っているよ。だいぶ前……ワカ君がまだ記憶を取り戻していない頃だったかな。お肉専門のハンターになれそうだと言われたことを思い出すよ。知識を仕事に存分に生かせるのは、本当に素晴らしいことだと思う。ワカ君もそれを理解しているだろうね。
 ……モーナコ?
 トラ君、採取は終わったかい?
 うん。
 たくさん採取したいみたいだね。
 モーナコ、元気?なら、いい。うん、オレも元気。……。ん、ワカは必ずここに来る。しんぱいしなくていい。
 はは、そうか。トラ君の勘は鋭いから、きっと来てくれるだろうね。おっさんたちはそろそろ帰るよ、もちろんバルバレに。エイドちゃんやグリフィスちゃんにも君がここにいることを伝えていいかな?きっと会いたがっているだろうし。……ありがとう、モーナコ。
 ワカ君と会えたらお肉をふんだんに使った料理でもてなすよ。ああ、ワカ君は魚が好きだったか。それなら肉好きに変わってしまうほどの美味しい料理を振る舞うさ。
 原生林にもモンスターはいるから、気を付けるんだよ。
 ……バイバイ、モーナコ。


 ナコ君、ここにいたのね。久しぶりだわ……。リエンも一緒に来たんだけど、海が久しぶりで村のアイルーたちとはしゃいでるみたい。ごめんね、気が済んだらこっちにも来るように言っておくわ。
 ナコ君とワカとの出会いは、私の運命を大きく変えたと思ってる。シュレイド城での狩りの時、ナコ君たちが一緒じゃなかったら私は……あいつを討伐できたか、わからない。え、そんなに驚くこと?よしてよ、ポッケ村の英雄だなんて。私はただ村のためにがむしゃらに駆け抜けてきただけなんだから……。
 話を戻すわ。ナコ君のようなオトモアイルーと出会えたらいいなと思っていた時に、天空山でリエンと会った。今ではあんなに元気にたくさんの人と話せているけれど、倒れているところを見つけたときはとても憔悴して、心も深く傷ついていた……。だけど私、どうしてもリエンを助けたかった。貴方を必死に助けようとしたワカの気持ちがわかった気がする。モンスターも自然の一部、蔑ろにできる存在じゃないって。
 私、バルバレを出てドンドルマに行こうと思ってるの……。四年前に剥奪されたG級ハンターに舞い戻るためよ。ええ、確かにポッケ村はドンドルマギルドの支部よ。そして、私はポッケ村では四年前に死亡したことになっている。あの男のおかげなのかわからないけれど、今のところ私の存在があちらに漏れた気配は無いわ。でも、ドンドルマに行けば知られる可能性は否定できない……。  ギルドの隠蔽で死んだことになっている私が生きていると知られたら、厄介なことになると思う。……大丈夫よ、ちゃんと考えはある。身分を偽ってハンターをやってるギルドナイトがいるくらいだもの、うまくやっていけるわ。
 ワカって、自分の感情を表に出したり相手との距離をとるのが苦手な人だと思うの。たくさんのことを背負って、それを相手に知られたくなくてどこか一歩引いてる。でも、ワカの傍にいることを唯一許されている人がいる……。それが貴方よ、ナコ君。初めて全てを打ち明けた相手が貴方なら、一番信頼しているのは貴方のはず。……ごめんね、私も少しだけ知っちゃった。安心して、私もワカの味方よ……。何も言わないわ。
 ワカがどこに向かおうとしているのか、私は知らない。でもどこかで会えそうな気がするの……。その時はまた、あの狩りの時と同じように隣に立ちたいわね。……私、そろそろ行くわ。元気でね、ナコ君。



 よう、しばらくだな。その様子だと鍛錬は続けているみてえだな。偉いじゃねえか、オトモアイルーとして復帰するための心構えをすることはいいことだぜ。
 お前と別れる前だったかな、あいつさ、ようやくオレたちに全部打ち明けてくれたよ。密猟者がつくった村の人間だからってオレたちが軽蔑するわけねえのに、ずっと気にしていたんだ。バカだよな、あいつ自身は密猟なんかしてないし、今更弟を軽蔑するかよ。お互い独りだったのを力を合わせて頑張ってきたのに、どこか距離を置いていやがった理由がやっとはっきりしたぜ。だから腹いせに一発デコピン入れてやった。オレのデコピンはゲリョスの閃光みたいに星が見える威力だから、相当痛がってたぜ。
 ミサ姉ちゃんはキャラバンがドンドルマつったかな、そっちで活動を始めるらしいからバルバレを出るんだ。リーダーの片腕っつーか奥さんになったんだけどさ、すげえ幸せそうだった。ずっとオレらの面倒を見てくれた姉ちゃんがさ、やっと自分の幸せを見つけたって感じに見えたんだよ。
 リウはナグリ村でまた発掘武具の研究さ。ハンターはやめてないみたいだけど、そのうち学者の仕事を中心にしてハンターを引退することも考えていたな。樹海で最近開拓された区域の調査なんかもしたいらしいんだ。モンスターも見かけない奴が現れたって聞くし。
 オレか?オレはバルバレに残る。あいつと仲のいい女の子の姉ちゃんのこと、覚えてるか?ほら、水色の髪を結った操虫棍使いの……そうそう。あの姉ちゃんは故郷で若手ハンターに武器の扱いを教えている教官だったろ。
 でさ、オレもこう見えて色んな武器を扱えるから、そういう面でこれからハンターになるって奴らの手助けをしたいなと思ってるんだ。なんだよ、忘れたのか?あいつに狩猟笛の扱いを教えたのはこのオレだぞ。
 なんでそう考えるようになったのかはオレもよくわからねえ。あの姉ちゃんに感化されたのかもしれないし、ミサ姉ちゃんたちがそれぞれの道を選んだのを見て決心できたのかもしれない。あいつより先に夢を叶えられるか、勝負だな。ま、オレはあいつの兄貴だから先にクリアしちまうだろうけど!
 オレたちのグループは本格的に解散した。みんな別々の道を進んで行く。でもオレたち兄弟は絆で結ばれてるから、離ればなれになったとは思わねえよ。それはお前も同じだろ?お前もあいつを信じて待ってるんだよな、それもあいつとお前の絆があるからだ。あいつは必ずお前を迎えに来る。だからいい子にして待ってるんだぜ。
 じゃあな。気が向いたらバルバレに来いよって、あいつと再会したら伝えてくれ。



 モーナコちゃん。良かった、あんまし変わってなくて。もちろんいい意味で言ったんよ?その、ワカにいちゃんのことを待ってくれてるって意味で。
 アタシは元気だよ、エールももちろん元気。いつ兄やんや姉やんに会っても胸を張ってハンターを頑張ってるって言えるようにね。このリオソウル防具もだいぶ様になってきてるように見えるかな?メーたんも。
 この間ね、ワカにいちゃんと会ったんよ。元気そうやった。新しい友達もできたみたい。それで色々話をしている内に、ワカにいちゃんが真面目な顔をしだして……ワカにいちゃんの正直な気持ちを受け取った。アタシのこと、大切に想ってるって。特別な存在なんだって。嬉しかったな、ワカにいちゃんの特別になれて。
 だからアタシも言ったんよ。それならワカにいちゃんの背負ってるもの、アタシに分けてって。それを聞いた時のワカにいちゃん、すごく複雑そうな顔をしていたけれど、ちゃんと全部話してくれた。村のことも、名前のことも、ヒナさんのことも。
 ワカにいちゃん、長い間独りで背負っていたんやね。モーナコちゃんに打ち明けて楽になったって言ってたけど、一番打ち明けるのが怖かったのはアタシなんやって。突き放されるんじゃないかって、気にしてたみたい……。
 それでも自分を好いてくれるか不安そうに聞いてきたから、アタシはワカにいちゃんが好きやから全部受け入れて、これからも好きでいるって答えたら真っ赤な顔をしながら喜んでくれたんよ。アタシもすごく嬉しかった。その後エールがテントにいることを思い出したけど。
 ワカにいちゃん、ちょっと遠くに行くかもしれんって。アタシはこれからもバルバレのハンターとして頑張るから、離れて生活をすることになるかもしれない。それでもアタシの気持ちは変わらんし、ワカにいちゃんも変わらない。不思議やね。遠くにいてもお互いに大丈夫、って確信があるんよ。
 モーナコちゃん。この気持ち、モーナコちゃんならきっとわかるんよね?モーナコちゃんはアタシより先にワカにいちゃんの特別な存在になっているから。ホントだよ?アタシとは違う特別な枠に入っているんよ、モーナコちゃんは。
 エールってば遅いな。それとも先に採取を始めたんかな。うん?今日は採取依頼でここに来てたんよ。アタシがモーナコちゃんにワカにいちゃんのことを伝えよう思ったらノロケはもうお腹いっぱいニャ、とか言っちゃって。アタシも行かなくちゃ。今度はみんなで勢ぞろいできるとええね。



 ワカ旦那さんと一緒に狩りをしたことがある人たちが、ボクの所にやって来てはたくさんのお土産話を置いていってくれた。ワカ旦那さんが元気でいることも知ることができて、ますます日課の角笛に力が入るようになってしまうほどだ。
 今日もまた広いエリア5の柱のてっぺんに登る。たくさんの緑に覆われているここは日差しが柔らかく、穏やかな時間が流れている。大型モンスターが現れたら一変してしまうけれど。
 今の原生林は脅威となる大型モンスターがいないので、角笛を吹いても何かがやってくることは無い。だから思い切り吹き鳴らすことができる。

(ワカ旦那さん。ボクは今日も元気に頑張っていますニャ。だから、いつでも帰って来てくださいニャ)

 プアッ、プアー。

 大きな音が原生林全体に響きわたり、葉っぱが風に揺れてサアアア、と音を立てて角笛の音色をチコ村に届けていく。原生林の平和を伝える時間だ。

 ――その時だった。

 プアッ、プアー。

「えっ……?」

 角笛の音色がこだましたのかと思った。でもすぐにそんなわけは無いと振り払った。だってその音色は力強く、芯の通った音で、まるで大地に強く根付く大樹のようだったから。この音色を奏でられる人を、ボクは一人だけ知っている。

 迷いもせず柱から勢いよく飛び降りる。着地をしたらすぐに両手で地面を強く蹴って大きく跳ぶ。視界はぼやけてよく見えない。だけど、しっかりと目の前にいる人をとらえた。
 着ている鎧が変わっていても、視界が多少ぼやけても、ボクはその人が誰なのかわかっている。その人もボクが何をしようとしているのかわかっていて、片膝をついて両手を軽く広げて待ってくれている。その胸に飛び込むように跳躍して、涙声のまま叫んだ。














「ワカ旦那さん!!」
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