狩人話譚

□ ボクとワカ旦那さん[4] □

ボクととある友達【1】

 今日は天気も良く狩り日和。もちろんワカ旦那さんも何か依頼を受けるべく集会所を訪れていた。ちなみに今回は狩猟笛を背負っていて、外の光に照らされ綺麗な碧色の輝きを放っている。

「地底火山の依頼が多いな……。」

 寒さに強い代わりに暑さにはとても弱いワカ旦那さんが恨めしげに依頼が貼られているボードを見つめる。ある程度受注されてしまっているのか依頼書は少なく、しかも残された依頼内容は地底火山や氷海など気候の厳しい場所ばかりで、どのハンターも行きたがらないのかもしれない。依頼書の内容に目を通しては虫の死骸を見つけたときのように苦そうな表情をしながらワカ旦那さんがうーん、と唸った。

「氷海の依頼は連続狩猟か、俺には荷が重そうだ」
「どうするんですニャ?」
「そうだなあ……樹海の調査にでも変えようか」
「あのっ、そこのハンターさん!」

 突然割り込んできた声に振り向くと、ギルドの受付の女の人が立っていた。ハチミツ色の服ということは下位の依頼を担当している人。なんだろうと思ったら目の前に依頼書を差し出した。

「遺跡平原から救助要請が届いたんです。採取に向かったハンターがティガレックスの急襲を受けたみたいで」

 集会所にいるのはボクら以外に狩りを終えて手続きをしているハンターや、狩猟の成功を喜んで食事をとっているハンターたちだけ。だからまだ依頼を受けていないボクらに直接話をしに来たようだ。
 救助要請を受ける機会に遭遇すること自体少ないけれど、ワカ旦那さんはすぐにその依頼を受注した。救助要請を出した後に命を落としてしまったヒナさんのように、手遅れにならないように自らの手で救出したいのかもしれない。
 それにワカ旦那さんが背負っている狩猟笛、【王牙琴】はジンオウガの雷の力を宿している。ティガレックスが雷の力に弱いことは身をもって知っているので、有利に狩りを進められるはずだ。



 遺跡平原に着き、ベースキャンプを発つと狼狽するアプトノスの姿が目に入った。大型モンスターが近くのエリアにいることをボクらに教えてくれる生態のサインだ。証拠と言わんばかりに遠くからかすかにモンスターの咆哮も聞こえる。ボクはワカ旦那さんを誘導して隣接するエリアに走った。

「いましたニャ!」

 黄金色の原っぱの上を駆け抜けるハンターと、その後を原っぱを力強く踏みしめながら物凄いスピードで追いかけているティガレックス。
 ハンターは男の人で、採取依頼に適したレザー装備を着ていたためティガレックスを狩る態勢が整っていないようだった。オトモアイルーと見られる黒い毛並みのアイルーもティガレックスの気をそらそうとあちこちを駆け回っている。

「ナコ、俺が笛を吹いている間にあの二人を避難させてくれ」
「わかりましたニャ!」

 ボクが駆け出すと同時に背後から角笛の音が鳴り響く。ハンターもティガレックスもワカ旦那さんの存在に気付き、ブレーキをかけたティガレックスは大音量の源であるワカ旦那さんに方向転換をした。原っぱに隠れていたボクはその隙にハンターに近づく。

「ハンターさん、大丈夫ですニャ?」
「助かった。君は?」
「救助要請を受けて来たんですニャ、今の内に避難して下さいニャ。ティガレックスはボクとワカ旦那さんでどうにかしますニャ」
「わかった、気ぃ付けて」

 ハンターがオトモアイルーを連れて隣のエリアに避難したので環境が整い、本格的な狩猟が開始された。やはり相性が良いのかティガレックスはワカ旦那さんの攻撃に怯んでいる。突進後の隙を狙っては頭部めがけて狩猟笛を叩きおろし続け、優位に進めていく。
 本来単独(ボクもいるけれど)での狩猟をワカ旦那さんは得意としない。いつも仲間のサポートを中心とした立ち回りをするため、攻撃を確実に当てられるよう慎重になってしまう。だから朝に狩りを始めて夜に終えることもザラだ。今回は事情が事情なのでとっさに受注したのだけれど、武器の相性のおかげで有利な立場に立っているからそんなことにはならなさそうだけど。

 あまり強い個体ではなかったのか、それともあのハンターも攻撃を加えていたのかやがて弱ってきたティガレックスが足を引きずりながら飛び去った。ペイントの臭いを追うと、最奥部のエリアに逃げ込んだのであと一息みたいだ。あのハンターも本来の採取依頼に戻れていればいいなと思いながら顔を上げて、ワカ旦那さんと目を合わせる。

「捕獲できるところまで弱っているな」
「捕獲するんですニャ?」
「いや、討伐するよ。……捕獲麻酔玉、忘れたから」
「うっかりですニャ、ワカ旦那さん」

 慌てていたのかシビレ罠は持ってきたのに捕獲に大事な麻酔玉を忘れてきてしまったので、討伐に切り替えざるを得なくなった。捕獲の依頼ではないから大きな問題ではないけれど、討伐時間がもう少しだけ伸びてしまいそうだ。



 ぴゅるるる、と鼻から間抜けないびきを出すティガレックスの寝床にゆっくりと近づく。大丈夫、ぐっすり寝ている。それを確認したワカ旦那さんはシビレ罠を仕掛けた。パリ、と音を立てて電流が走り出す。

「よし、今だ……うわあっ!?」
「ワカ旦那さん!?」

 シビレ罠に引っかかったチャンスを逃すまいと立ち上がったワカ旦那さんが突然悲鳴をあげた。ティガレックスに反撃を受けてしまったのかと思い驚いて目を向けるも、ティガレックスはシビレ罠によってビリビリと体を震わせているだけ。

「やめっ、やめろ! 離れてくれ!」

 顔を庇うように腕を上げて身を屈めながら叫ぶワカ旦那さんの近くを、大きめの虫が飛び回っている。それはブナハブラではなく、見覚えのある猟虫。エイドさんが“マルちゃん”と呼んでいたあのマルドローンだ。
 ワカ旦那さんを襲おうとしているのではなくあくまで周りを飛び回っていて、理由がわからず呆気に取られているとティガレックスの体が再び倒れ込んだ。そしてまた鼻から寝息……これは二度寝に入ったのではなく、第三者の乱入によるものだった。

「良かったー、間に合って。あ、戻ってええよ」
「えっ……はぁ?」

 のんきな調子の声に応じた猟虫がとんぼ返りをして定位置である操虫棍の持ち主の腕に止まる。脅威が去ったことで放心状態から解放されたワカ旦那さんは、さっき見せた失態を恥じて顔を赤くして怒りだした。

「あ……アンタ、どういうつもりだ! 猟虫を人に向けて飛ばすなんてっ!」
「そっか? モンスターの気を引いたりするのに便利なんやけど」
「俺はモンスターじゃない!!」
「虫が苦手だなんて、旦那と同じニャ」
「それは言うなよ。猟虫は平気やしここまでビビったりせんし」

 猟虫を飛ばしたのも、ワカ旦那さんが怯んでいる隙に捕獲玉を投げつけたのも先ほど避難したはずのハンターによるものだった。さっきは急いでいたので改めてハンターの出で立ちを確認する。
 ワカ旦那さんと同じぐらいの年の男の人で髪の色はワカ旦那さんの黒土色より少し明るく、前髪が少し浮いている。目はフルクライト鉱石のような鮮やかな色をしていた。
 捕獲できたことに安心しているハンターの後ろにはブレイブネコ防具を身に付けたオトモアイルーが立っていた。黒と白のツートンカラー、メラルーのようにも見える。ボクと同族かもしれない。ワカ旦那さんの剣幕に驚きつつも、ハンターはその場をごまかすかのように手を合わせて声高らかに笑った。

「と、とにかく捕獲したし、ええやろ! なっ? ……成功してるよな、寝てるよな?」

 おそるおそる寝息を立てるティガレックスの顔を覗いては時々ビクリと動く体に驚いているハンターを見て、ワカ旦那さんは怒りを通り越して呆気にとられてしまった。今までで出会ったハンターの中で一番マイペースな人のような気がする。変わった口調からもそう感じ取れるのかもしれない。

「依頼されていた特産キノコも集まったし、ベースキャンプに戻るわ。えっと……ごめん、名前を聞いてなかったな」
「俺は【ワカ】、そしてオトモアイルーの【モーナコ】だ」
「ありがとな、ワカ君にモーナコちゃん。俺は【朝市アサイチ
】っていうんだ」
「自分は【おちび】ニャ」
「“市”に“ちび”か。よろしく」
「うん? 俺は朝市なんやけど」
「ワカ旦那さんは名前を縮めて呼ぶ癖があるんですニャ」
「へえー、変わってるな!」
「アンタに言われたくないよ……。」

 ちょっとげんなりしているワカ旦那さんの目線はパニックの元凶である猟虫へ向けられている。その視線に気づいた朝市さんが『あ、あと猟虫の』と言い出したのをワカ旦那さんは慌てて『いや、飛ばさなくていい!【マルドローン】なのはわかるから』と牽制した。
 開放感に溢れる平原に出て歩いていると、先を歩いていた朝市さんが振り返り、あることを提案された。

「あのさ、そろそろ夕飯時だし俺のキャラバンに寄っていかんか? お礼がてらご飯をご馳走したいんだ。つくるのは俺やないけど」
「なるほどニャ、救助要請に対する報酬はギルドから支払われるけど自分たちからの感謝の気持ちということニャ?」
「そういうこと。どうや、ワカ?」
「それじゃ、お言葉に甘えて」

 こうしてボクらは朝市さんが所属しているキャラバンにお邪魔することになった。ライトボウガンの演習を受けるためにミサさんが所属しているキャラバンに行ったことはあるけれど、実際にキャラバンの人たちとじっくり話をすることなんて初めてだ。ドキドキする。

 移動中に色んな話をしていると、どうして朝市さんがワカ旦那さんを妨害したかが明らかになった。思わずワカ旦那さんが聞き返してしまうほどの理由だった。

「モンスターを捕獲しかしない……?」
「うん、モンスターだって生きてるやろ? モンスターも自然の一部やし、殺生はなるべくしたくないんよ。だからいつも捕獲しとった」

 どうやらボクらの後をつけて行き、捕獲玉を使わないことから討伐すると判断して無理やりワカ旦那さんを足止めして持っていた捕獲玉を投げつけたらしい。
 朝市さんの話を聞いてワカ旦那さんの表情が険しくなる。もちろん猟虫を自分目がけて飛ばされたことに対してではなく、話の内容に対してだろう。それに気がついて朝市さんも首を傾げ、ワカ旦那さんは首を横に振った。

「市、モンスターが自然の一部というのは俺も同感だ。けれど捕獲が決して殺生じゃないとはいえない」
「え? なんで……」
「捕獲した後どうして報酬としてモンスターの素材を手渡されると思う? 命を奪わずに捕獲してもギルドで解体されているからだと言われているんだ。中には貴族の戯れで闘技場に連れ出され、見世物として無意味な殺し合いに巻き込まれていることもあるとか」
「で、でもっ! 生きて帰される可能性があるなら」
「狂竜化した場合はどうする? それでもアンタは捕獲して、野に帰すつもりなのか?」
「……狂竜化してしまったら、そんときは狩る。俺には狂竜化したモンスターが悲鳴をあげているように見えるんだ。だからせめて苦しみから解放させて楽にしてやりたい。いつかは討伐以外でモンスターを救う方法を見つけるのが俺の夢なんだ」
「モンスターを救う、か……。」

 拳を強く握って空を見上げる朝市さんのフルクライト色の目は希望で輝いていて、一方ワカ旦那さんは気難しい表情を崩さない。おちびがワカ旦那さんを厳しい目で見ていたことに気が付いてしまいちょっと居心地が悪くなる。
 モンスターを救う。それはワカ旦那さんが今まで何度かとった行動だった。リオレイアの雛を親に引き渡し、ガブラスに襲われていた子どものジンオウガを助けた。残念なことにどちらも親から好意を理解してもらえずに手痛い反撃を受けてしまったのだけれど。
 ふとおちびと目が会う。ボクに似た毛並みだったのでもしかして、と問いかけることにした。

「もしかしてメラルーなんですニャ?」
「ニャ!?」

 おちびの声色は明らかに機嫌を損ねていて、ボクは予想外の反応に目を丸くしてしまう。ボクを睨みつけながらおちびはブレイブネコガレアをぐいと上げて、自分の眉をアピールするように手を当てた。

「モーナコ、この白い眉が見えないニャ!? ボクはアイルーニャ、メラルーにはこの眉が無いニャ!」
「た、確かにそうですニャ。ごめんなさいニャ、てっきりボクの仲間かと思って」
「アイルーなのか? 俺もメラルーだと思ってたよ。せっかくナコに同族の友達ができると思ってたのに」
「ワカ殿まで勘違いしていたニャ! 失礼ニャ!」
「ごめんな、ちび」
「はははっ! みんな間違えるんだよな。モーナコちゃん、気にせんでええよ」
「市、もしかしてだけど……ナコを女の子と思っていないか?」
「だって喋り方が丁寧やし、可愛いらしい名前で回復笛が得意なんて女の子じゃ……えっ、違うんか!?」
「まさかワカ旦那さん以外の人にもボクの性別を間違われるなんて思わなかったですニャ」
「お互いにうっかりな旦那を持ったニャ、モーナコ」
「「なんだよそれ!?」」

 ボクの早とちりだったけれど、結果的にその場を和ませることに成功したようだ。思わず同時に同じ言葉を発した朝市さんが大笑いして、それにつられてワカ旦那さんの表情も和らいだ。



 バルバレに戻り、ギルドで手続きを終えると朝市さんのキャラバンに案内された。朝市さん以外にもハンターは数人いるそうだけど出払っていて、そのため朝市さんは一人でもこなせる採取の依頼を受けたらしい。
 キャラバンのご飯事情を一手に引き受けている料理人はハビエルさんぐらいの歳の男の人で、朝市さんの依頼を手伝ってくれたことにお礼を言ってくれた。そしてどんどん手料理を振舞ってくれたのでボクらはお腹がいっぱいになるまでご馳走になった。やっぱりワカ旦那さんにも料理を覚えてほしいなと思う。

 朝市さんが狩猟用の装備ではない不十分な環境の中ティガレックスの出現の対処をどうするか悩んでいる間に、オトモアイルーとして長く活動しているおちびが救助要請を出すことを提案したらしい。その判断が早かったのでボクらがちょうど朝市さんを追いかけているティガレックスを見つけてすぐに割り込むことができたようだ。まさか討伐の寸前に割り込んで捕獲するなんて思いもしなかったけれど。
 キャラバンの人たちと話をしている内に、あっという間に空は真っ暗。ボクらの住んでいるテントはちょっと遠いのでそろそろ帰らなくてはいけない。朝市さんたちとお別れをしてボクらはマイルームに戻った。

 翌朝、ぐっすりと眠っているボクの夢の世界に誰かの声が入り込んできた。その声はワカ旦那さんとボクを呼んでいて、ワカ旦那さんが目を覚ましてベッドから降りる気配を感じたところでボクも体を起こした。

「よっ、おはよう! ワカ君、モーナコちゃん」

 寝ぼけ眼で朝日を浴びている来客を凝視する。テントにやってきたのは昨日会った朝市さんとおちびだった。こんな朝に一体どうしたのかなと思っていると、朝市さんが持っている袋からなにやらいい匂いが漂っていることに気が付く。あんなにたくさんご飯をご馳走になったのに、お腹はもうぺこぺこだ。

「朝飯を届けに来たんだ。ワカ君は料理しないんやろ? うちの料理人がつくった朝ごはんのお裾分け。今回だけやがな」
「まさかまだ寝てるとは思わなかったニャ。髪の毛が爆発してるニャ」
「今日は狩りを休む予定だったんだよ」

 袋を受け取り、ハチミツ色の目をこすりながらワカ旦那さんが答える。美味しそうな匂いの正体はポポノタンかな、とお腹の虫が勘づいた。

「休み? それじゃ今日は暇なんか」
「暇といっても、図書館に書物を借りに行く用事くらいはあるよ」
「そっか。良かったら俺の友達に会わせたいんやけど」
「友達? ハンターなのか?」
「それは会ってみてのお楽しみ。ワカ君なら仲良くしてくれるんじゃないかと思って」

 朝市さんの言う『友達』は天空山にいるらしい。採取ツアーの依頼を受けて迎えに行くそうだけど、念のために装備は整えた。集会所で朝市さんたちと合流すると、朝市さんはドスジャギィの防具を身に付けていた。これが本来の狩りに向かう際の装備のようだ。
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