狩人話譚

□ ボクとワカ旦那さん[4] □

ボクと兄弟たち【1】

 狩りに出たワカ旦那さんの帰りを待っていると、同じく主を待つエールと会った。二人で集会所から出てくる主を捜すこと数分。ボクらはそれぞれの主を見つけたのだけれど……。

「た、ただいま……ナコ」
「……お出迎えありがとうね、エール」

 苦笑いをする二人の背後にはハンターが総勢六人。二組の兄弟が一堂に会した日となった。



「エイドさんの兄弟が三人も? エール、知ってましたニャ??」
「兄弟がいることは知っていたニャ、でもこんなにいるとは思わなかったニャ」
「エールもか。俺も家族全員がハンターってぐらいしか聞いていなかったから驚いたよ」
「ごめんね、みんな。隠してたわけじゃないんやけど」

 ワカ旦那さんはミサさんたちと狩りに向かっていた。だからミサさんたちがいるのは理解できるけれど、エイドさんの傍にいた3人のハンターがエイドさんのお兄さんお姉さんと知らされ、ボクもエールも目を丸くしてしまう。
 たまたま狩りを終えて集会所に戻ったワカ旦那さんは、兄弟と再会して話をしているエイドさんを見つけた。そしてせっかくの機会だからと全員で夕飯を一緒にとる話になった。

 日々たくさんのお客さんで賑わう飲食店に入る。ハンター八人とオトモアイルー二人という大人数になったので広い部屋に案内され、大きなテーブルに食事が並べられていく。こうして全員で食事をとりながら交流が始まった。

「やっぱり片手剣ならプリンセスレイピアやねぇ。貴方も愛用してるなんて私嬉しいわぁ、うふふ」
「レイアちゃんの武器だもの、強いに決まってるじゃない! 話が通じて私も嬉しいわ、【カトレア】」

 一番上がお姉さんの【カトレア】さん。エイドさんの故郷でハンターをしているそうで同じく片手剣、それもミサさんが大好きなリオレイアのものを愛用していることもあって意気投合したようだ。
 濃い青の髪を肩くらいまで伸ばしていて、肌が白い。エイドさんは肌の色が濃いから兄弟でも違うところがあるんだなと思う。着ている鎧は綺麗なマカライト色で、ワカ旦那さん曰くあれは【炎妃龍ナナ・テスカトリ】というテオ・テスカトルの対の古龍の鎧だという。腕前もかなりのものみたいだ。

「チャージアックス、こちらには無い武器ね……興味深いわ」
「これがさ、扱いが面白くて強い武器なんだよ。時間があれば【イオシス】にも教えたいくらいだぜ」

 フェイさんと武器の話をしているのは2番目のお姉さん、【イオシス】さん。カトレアさんと同じく故郷に住んでいて、教官として務めているらしい。なので使用しているヘビィボウガン以外の武器にも精通しているし、何より教え方が上手だとエイドさんが教えてくれた。
 カトレアさんはおっとりした喋り方だけどイオシスさんは訛りの無いさっぱりとした話し方で、髪を短くしていることもあってか男勝りな印象を受ける。無性別な印象を受けるアーティア装備を着ているため、遠くから見れば性別の区別がつきそうにない。

「【雌火竜落としのミサ】さんのことは知っていたけど、兄弟がいたとは知らなかったな」
「【ウィルソン】、それについてなんだが……俺たちは全員孤児でな。孤児院で出会って兄弟の契りを結んだ。血は繋がっていなくても、絆は劣らない。俺たちの自慢の姉さんを知っているとは光栄だ」

 穏やかな雰囲気で話しているのは3番目のお兄さん【ウィルソン】さん。同じく落ち着いた性格のリウさんと話をしていた。エイドさんと同じく肌の色が濃く、髪の色はエイドさんよりも薄い。兄弟でこれだけ違いが出ているので、お父さんとお母さんで肌の色が違うのかなと思った。
 ウィルソンさんはお姉さんたちとは逆に故郷を出てあちこちを旅していて、その途中でバルバレでエイドさんがハンターとして活動していることを知り三人でバルバレにやって来た。
 この二人は共にガンランスの使い手なので武器の話もしていたけれど、『モロコシ』とかガンランスには関係無さそうな単語が聞こえた。何のことだろう。

「エドちゃんも四人兄弟、それも末っ子なんだな。俺と一緒だ」
「うん、みんな自慢の姉やんと兄やんなんよ」

 末っ子同士のワカ旦那さんとエイドさんもご飯を食べながらのんびり談話をしていたけれど、エイドさんがどこか緊張しているように見える。兄弟と一緒にいるワカ旦那さんは仲間のハンターたちがいるときよりもっとリラックスしているというのに。

 食事を終えて宿に泊まるリウさんをミサさんとフェイさんが見送りに行き、ワカ旦那さんもついて行こうとしたけれどエイドさんたちの声が聞こえて立ち止まる。
 エイドさんの兄弟はやはり血を分けただけあって顔つきが似ている。ワカ旦那さんより年上みたいで、全員場数を踏んだ熟練ハンターの顔をしていた。

「エイド、ハンターを続けていたのね」
「……ごめんイオシス姉やん、黙って出て行ったりして」
「ホンマに心配かけさせる妹やねぇ。あのままやったら、その内私の顔に泥を塗られるところやったわぁ」
「カトレア姉さん、あまりエイドちゃんに強く当たらないでくれよ」

 どこか棘のある言い方をしたカトレアさんをウィルソンさんが諫め、落ち込むエイドさんをイオシスさんが慰める。この状況にいつもなら口を挟むエールもどうしたらいいかわからず、兄弟の会話を聞くことしかできないでいた。兄弟のはずなんだけどどこかぎこちなさを感じつつも去りにくい雰囲気にどうしようかとワカ旦那さんと立ち尽くしていると、『ほんなら』とカトレアさんが話を持ち出した。

「エイドの実力がどれほどのものになったんか、見せてほしいなぁ」
「姉さん!」
「黙りぃ、ウィルソン」

(エイドの兄弟……ギスギスしすぎニャ。ちっともハートフルじゃないニャ)
(ボクもそう思いますニャ、空気が重いですニャ)

 明らかにカトレアさんに怯えている様子のエイドさんに兄弟仲が良くないことをエールと共に察した。ワカ旦那さんたちの和気藹々とした雰囲気は一切無い。あくまでカトレアさんだけが不穏な気配を出しているけど、エイドさんは兄弟であるにも関わらずカトレアさんが苦手なのだろうか。

「集会所で依頼を見てたらな、明日に氷海っちゅぅところでティガレックスの討伐があるんやってねぇ。エイド、あいつを狩ってみぃ。捕獲はダメやで、討伐やからなぁ?」
「……カトレア、いきなり何を」
「簡単なことやでぇ、イオシス。“あの日”から成長したのかどうか試させてもらうだけなんよぉ。もし失敗してしもうたら……村に戻って一から鍛え直さんとねぇ」

 兄弟の間で何があったのかはわからないけれど、エイドさんは家出の如く故郷を出てきたのだろうか。ウィルソンさんが『真に受けなくていいよ』とエイドさんに声をかけるけど、エイドさんはオロオロしたままだ。だけどその態度はカトレアさんの問いかけで変わった。

「返事聞いてへんなぁ、エイド?」
「や、やる! アタシ、あいつを狩ってみせる!!」
「……ほぉ」

 迷いを振り切ったようなエイドさんの返事に、カトレアさんが鋭い眼光を放つベテランハンターの表情を見せた。だけど直後に軽く咳払いをして強ばったままのエイドさんを見やると、更に条件を追加した。

「そこにいるアイルーはエイドのオトモアイルーなんやねぇ。それじゃその子も一緒で。あとは……せやね、ワカさぁん?」
「はっ、はい!?」

 いきなり名前を呼ばれたのでワカ旦那さんの声が思わず上擦ってしまった。イオシスさんがくすりと笑うのが見えて、ワカ旦那さんは恥ずかしさから頭をかく。

「貴方には立会人として付き合ってほしいんよぉ。もちろん一緒に狩りに参加してほしいんやけどねぇ。そこのオトモアイルーも一緒でええわぁ」
「……わかりました」

 とんでもないことに巻き込まれてしまったと思いながらも、エイドさんのためにワカ旦那さんはカトレアさんの申し出を受け入れた。もしティガレックスの討伐に失敗してしまったら、エイドさんはバルバレを去ることになってしまうのだから。

「本当は私が行きたいんやけどねぇ、所属ギルドが違うから手続きに時間がかかってしまうんよぉ。せやからきちんとエイドがタマ獲るとこ見てやってねぇ。ギルドからの報告楽しみにしてるでぇ、うふふ」

 話がまとまるとカトレアさんたちは宿へ向かった。三人を見送ると決意を表明したはずのエイドさんの体が震えていて、それ気がついたエールが声をかける。

「しっかりするニャ、エイド。自分で決めたことニャ、覚悟を決めるニャ」
「……うん」
「ティガレックスか……エドちゃん、俺たちもテントに戻るよ。明日はよろしく」
「待って! ワカにいちゃん」

 背を向けてテントに向けて歩きだそうとしたワカ旦那さんを引き留めたエイドさんの表情は、緊張しつつも高揚しているようにも見える。マカライト色の瞳がハチミツ色の瞳をじっと見据え、ワカ旦那さんもつられてちょっと緊張した顔つきになった。

「あんね、明日に備えて道具の調合をしたいんやけど……作戦立てもしたいし、これからアタシのテントに来てもらってええかな?」
「わかった、装備を整えたら行くよ」

 そろそろ賑やかなバルバレも静かな夜を迎える。夜のテント内での調合作業は慣れたものだけど、それを人の、それも女の人のテントで行うのは初めてだ。そもそも個人の空間なのだから互いに干渉しないようにしているけれど、ワカ旦那さんを呼び込もうとするエイドさんは何か大事なことを伝えようとしているのではないかと思った。



 ワカ旦那さんはテントに戻るとユクモ村で購入したユクモ装備(すっかり私服扱いだ)に着替え、装備品ボックスからある武器を取り出す。
 手に取った武器は狩猟笛ではなくライトボウガンで、蒼竜火砲ではなくとてもシンプルな形をしたボウガンとは思えないものだった。細身の本体に、小さな引き金。モンスターの鱗などが見当たらないことからあの黒龍の狩りの際に用いた狩猟笛と同じ系統の武器ではないかと予測していると、ワカ旦那さんの口から正解を出された。

「これは【大鬼ヶ島】。アヴニルオルゲールと同じ錆びた武器を研磨した武器なんだ。【銃】と呼ばれるボウガンより更に原始的な武器らしい」
「どうしてこのボウガンにするんですニャ?」
「攻撃重視なら蒼竜火砲の方が向いている。だけど明日の狩りはエドちゃんにとって大事な試練なんだ。俺が前に出たらいけないだろうから、サポートに回ろうと思って」

 狩猟笛でも常にサポートとして立ち回っているけれど、それをライトボウガンでも行うつもりのようだ。調合に用いる材料をカバンに詰めてエイドさんのテントに向かった。

「エドちゃん、入っていいかな」
「ええよ、ワカにいちゃん」
「お邪魔するよ……うわあ!?」
「あっ【メーたん】アカンよ、ワカにいちゃんに引っ付いちゃ」

 テントに入った途端エイドさんの操虫棍の猟虫、かつては【マルちゃん】と呼ばれていた【マルドローン】が成長して今は【メーたん】こと【メイヴァーチル】がワカ旦那さんの周りを飛んでいる。紺とオレンジの羽をパタパタとはためかせて旋回する様はどうやら歓迎しているみたいだけど、未だに虫が苦手なワカ旦那さんは困ってしまっていた。
 エイドさんの指示を受けてひらりと舞うと操虫棍【シャドウウォーカー】の傍に止まりワカ旦那さんがふう、と息を吐き調子を整える。

「何から調合するんだ? 生命の粉塵か、それともシビレ罠か?」
「ううん。あんね……」

 首を横に振り、エイドさんはある武器をワカ旦那さんの目の前に差し出した。それは、いつも握っていた操虫棍ではなく……。

「これは【クイーンブラスター】じゃないか。どうしてエドちゃんが弓を?」

 リオレイアの素材からつくられた、森の葉っぱのような緑色の鱗で覆われた弓。ボクはエイドさんが弓を使っている姿を今まで一度も見たことが無い。驚いた顔で弓を見つめているエールもどうやら存在を知らなかったようだ。俯かせた顔を上げ、エイドさんが口を開いた。

「ワカにいちゃん、聞いてほしいんよ。アタシの……弓使いだった頃の、ティガレックスの話を」
「……わかった」

 すとんと座るエイドさんに倣ってワカ旦那さんも、ボクも座る。そしてエイドさんは自分の過去を明かしてくれた。それはエールでさえも知らない話だった。

「アタシはもともと弓使いやった。まだ駆け出しだった頃、カトレア姉やんに連れられて雪山にティガレックスの討伐に向かったんよ。あの頃のアタシはまだまだ未熟で苦戦したけれど、カトレア姉やんの力もあってどうにか立ち向かってた。けど、ティガレックスが突然狂竜化して……。」
「狂竜化!? エドちゃんの故郷に狂竜ウイルスが……?」

 狂竜化という言葉を聞いてワカ旦那さんが驚く。エイドさんの故郷はバルバレの地域から離れている。そんな所で狂竜ウイルスが発生しているとは到底考えにくいから。

「あのときは何がなんだかわからなかったけど、思い返せばそうやと思う。たぶん、こっちで狂竜ウイルスに侵されたティガレックスやったんやと。それでカトレア姉やんに逃げろって言われて、アタシ怖くなって言われた通り逃げた。その間カトレア姉やんはティガレックスと戦ったんやけど、狂竜ウイルスのせいもあって苦戦して……態勢を立て直すためにベースキャンプに退いたそうなんよ。それに気付かなかったアタシはどうにかカトレア姉やんと合流しようと捜して……先にティガレックスと会っちゃった」

 エイドさんの真剣な話にエールもいつもなら入れる相づちも打たず黙って聞いている。その表情はエイドさんを心配しているようで、ここにもエイドさんのお姉さんが1人いることを示していた。

「一方的に襲われて、アタシはこのまま死ぬと思った。でも死にたくない、ためらっちゃいけないと考えたら何かが弾けちゃって……気が付いたら血塗れでティガレックスの傍におった。カトレア姉やんのおかげでアタシでもどうにか狩れたみたいだったんやけど、弓はボロボロだしアタシも傷だらけやし、何より何も覚えてないのが怖かった。どうやってティガレックスを狩ったのかわからんかったんよ。それなんにね、どうしてか『楽しい』って思った。狩りを、モンスターの命を狩ることを楽しいって思ってしまったんやって、アタシ……わけがわからなくなって」

 エイドさんの弓を握る力が強くなる。狩りの時にだけ見せる人が変わったかのように変貌する現象は、このティガレックスの狩りの時に初めて起こった。狩りが終わっていつものエイドさんに戻ると狩りに同行したハンターに謝るのは、狩りの最中の記憶が無いから。エイドさんのオトモアイルーになっていた頃に聞かされていたことだった。

「それでカトレア姉やんと村に戻った数日後、アタシは弓も故郷も捨てて逃げてしまったんよ。だけどアタシには狩りしかないから、バルバレでハンター業を再開した頃にエールと会って、操虫棍を使うようになって、それからずっと一人で狩りをしてきた。ワカにいちゃんたちと会ったのはそれから何年か後やったかな。だからね、弓とティガレックスはアタシにとってトラウマそのものなんよ」
「エイド、ならどうして弓をつくったニャ。見たところ使い古されているニャ、実際に使っていたニャ?」
「過去から逃げたくなくて、演習だけしていたんよ。だけどティガレックスに立ち向かうのは怖い。今もティガレックスだけは一度も狩ったことが無いんよ」

 エイドさんがギルドカードを見せてくれたのでギルドによって管理されているモンスターの討伐数を見ると、確かにティガレックスの欄だけ討伐も捕獲も記録が無い。ティガレックスに関わる依頼だけを避けてハンター業を続けていたみたいだ。

「ワカにいちゃんは記憶を失ったり狩りから退いたこともあったけど、頑張ってハンターを続けていて、すごいと思う。アタシもワカにいちゃんみたいに過去に怯えてばかりの自分を乗り越えたいんよ」
「買い被りすぎだよ。俺は何も成長していない」
「そんなことないんよ、ワカにいちゃん。カトレア姉やんが選んでくれたのがワカにいちゃんで良かった。ハビおっちゃんやトラ君、フィスさんでももちろん頑張れるけど、ワカにいちゃんにならこのことを打ち明けられると思っとったんよ」
「エドちゃん……。」

 エイドさんのまっすぐな気持ちにワカ旦那さんはどう受け止めたらいいか迷っているように見えた。記憶を失い、右足に大火傷を負って数ヶ月狩りを休み、そして大好きだった人を失った。ボクはオトモアイルーになってからしか知らないけれど、ワカ旦那さんが歩んできた壮絶な道を共に見てきた。

「……えっと、そ、そうやん調合しよ、ワカにいちゃん!」
「あ……ああ、そうだな、そうしようか」

 妙な間が空いた後にエイドさんが顔を赤くしながら慌ててアイテムボックスから弓に使うビンの材料を取り出し、ワカ旦那さんも同調して持ってきたカバンからボウガンの材料を出して調合を始めた。
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