狩人話譚

□ ボクとワカ旦那さん[3] □

ボクとオトモアイルーたち【2】

 まず語り始めたのはリーダーのテッカだった。もちろんエールが急かしたせいもあるだろうけれど。

「私は教官のアイルーにオトモアイルーの基礎を学んだニャ。それなりに経験を積んで、ギルドから数日限定の派遣オトモアイルーとして様々なハンターの元で働いていた時にハビエルと出会ったニャ」
「教官のアイルー? アイルーが教官なのニャ?」
「そうニャ。オトモアイルーの信念はそのアイルーから学んだニャ。出会ったばかりのハビエルはハンターになりたてのひよっこハンターで、トラフズクとカワセミと出会ったのもその頃ニャ」
「あの頃のハビエルはどう見てもただの大柄なおっさんだったニャ。だけどちび旦那は少しずつそのおっさんがいい人だとわかってきて、信用するようになったニャ。ボクが認めているのはちび旦那だけだけど、ハビエルも少しは認めてやってるニャ」
「相変わらずカワセミは一言多いニャ」

 ハビエルさんとトラフズクさんが同じテントで住んでいるので、オトモのテッカとカワセミのやりとりもだいぶ親しんでいるようなものを感じる。
 ズワロポスが道を塞いでしまっていたのでボクとリエンで追い払っていると、ハビエルさんの話題で胸がときめいているエールがとっさに尋ねた。

「派遣オトモアイルーだったのに今はずっとハビエルのところにいるニャ、テッカは派遣じゃなくなったニャ?」
「ハビエルにオトモアイルーになってほしいと頼まれたニャ。私はその言葉をありがたく受け取って、晴れてオトモアイルーになったニャ」
「羨ましいニャ、ボクも言われてみたいニャ」
「エールはエイドさんのオトモアイルーだから、それはできませんニャ」
「ハビエルさんに一緒にいてほしいなんて言われたら、嬉しすぎて鍵尻尾が真っ直ぐになっちゃうニャ」
「エール、エール。戻ってきて下さいニャ」
「モーナコ、放っておくニャ。しばらくは戻ってこないニャ」

 ハビエルさんの話となると恋する乙女モードに変貌するエールは傍から見ているとやっぱり女性なんだなと思えるけど、本人が聞いたら驚きそうなほど過激で積極的でエイドさんの性格とは正反対だ。乙女の妄想世界に入り込んでしまったエールはしばらく帰ってきそうに無い。カワセミに止められて諦めた。

「仕える主を決めたのなら、教官アイルーも喜んでいたんじゃないニャ?」
「…………。」
「テッカ?」
「そう、ニャ。きっと喜んでいるニャ」
「……ごめんなさいニャ。余計なことを言ってしまったニャ」

 テッカがマグマに照らされた赤い空を見上げる。無言で見せたその行動は、教官アイルーが今どこにいるのかを告げていた。空気を重くしてしまった発言をしたことをリエンが謝ったけれど、テッカは見上げた顔を戻して『もう過去のことニャ』と笑っていた。

「私はハビエルのオトモになる前にたくさんのハンターを見てきたニャ。中には私をモンスターの囮にしようとした人もいたし、依頼の失敗を全部私のせいにして殴りかかってきた人もいたニャ」

 そんな酷いことをする人もいたのか、とテッカに同情したけれどカワセミがボクの肩を軽く叩く。それに気付いたリエンがこちらを向いた。

「モーナコは元はメラルーニャ。メラルーはハンターから持ち物をくすねて生活を成り立たせているから特にハンターの目の敵にされていたニャ。だから襲われるなんて日常茶飯事だったんじゃないニャ?」

 原生林に住んでいた頃、ハンターのポーチめがけて杖を振るっていた日々を思い出す。ハチミツや回復薬を奪って『ドロボーネコ!』と罵られ追いかけ回され蹴り飛ばされてはたんこぶをつくっていた。命を狙っているわけではないおかげかこちらも命を奪われることも無く済んでいたので、そこまで人間に敵対心を持ったことは無かった。
 ハンターに疎まれることが当然のメラルーとして生きていたボクがワカ旦那さんと出会った日は、だいぶ前に遡れるほど時間が流れていた。

「ワカ旦那さんはドスイーオスに尻尾をかじられたボクを討伐の依頼を受けていたのに助けてくれたんですニャ。だからボクは恩返しをしたくてオトモアイルーになったんですニャ」
「……僕と似ているニャ」
「リエンもそうなんですニャ?」
「人間に捨てられた後、天空山の隠れ村に住まわせてもらっていたニャ。だけどある日突然龍に襲われて、みんなは山から落ちてしまったし、僕も怪我をしたニャ。そこに偶然通りかかったのが今のご主人様ニャ」

 同胞の悲しい顛末に全員が口を閉ざす。天空山はあの厳しい地形によってモンスターに狙われにくいから、アイルーが村をつくっているとワカ旦那さんが話していた。地滑りが起こったりモンスターのブレスなどで攻撃を受けたら足場を失って崩壊してしまうという欠点もある、とも。

「犯人は【天廻龍シャガルマガラ】だったニャ」
「シャガルマガラ!?」

 驚きの声をあげたのはテッカだ。主のハビエルさんの宿敵だったその名前をまた聞くことになるとは思わなかった。特殊な個体のシャガルマガラの討伐にボクは樹海出現時に居合わせたためにワカ旦那さんと共に参加して、無事に討伐を終えた。その後テッカにボクの代わりに主の宿敵討伐を手助けしたかったと珍しく愚痴をこぼされたのは記憶に新しい。

「ご主人様と力を合わせて討伐できたニャ。村のみんなの敵を討てたニャ」
「さすがグリフィスさんですニャ。古龍討伐が得意だそうですからニャ」
「僕、助けてもらったのに最初はご主人様を警戒したニャ。でも僕を助けようと一生懸命になってくれたご主人様には本当に感謝しているニャ」

 グリフィスさんの話をするリエンの目は輝いていて、自信に溢れているようだった。それほどグリフィスさんに信頼を置いているのに、他の人間にはまだ心を開けないのだろうか。

「私たちアイルーだって色んな性格があるニャ。同じように人間だって様々ニャ。少しずつでいいから、また人間と触れ合ってほしいと私は思うニャ。」
「テッカ……。」
「テッカ! 向こうにリオレウスがいたニャ」
「了解ニャ。みんな、準備はいいニャ?」
「ボクはとっくの前から準備オーケーニャ。新入りはどうニャ」
「僕もオトモアイルーニャ、頑張るニャ」

 途中から偵察に向かっていたエールが対象を見つけて戻ってきたので、その場の緊張が高まる。
 エールの誘導に従って歩いていくと、狭い道を抜けた先の開けた場所にリオレウスが我が物顔でくつろいでいた。リオレウスにとってはちょうど良い休憩場所なのかもしれないけれど、ここはアイルーたちの更なる住処になる土地だ。申し訳ないけど退去してもらわなくてはならない。すぐに攻撃は仕掛けない。テッカが全員にそれぞれの役割と作戦を伝えてからだ。

「私とカワセミが真正面から突撃するニャ。頭部を中心に叩くニャ。エールは隙を見て爆弾攻撃、モーナコは足を狙いながらみんながダメージを受けたら回復笛を頼むニャ」
「テッカ、僕はどうしたらいいニャ」
「リエンはモーナコと一緒に足を狙うニャ。モーナコ、リエンのカバーをよろしくニャ」
「わかりましたニャ」
「モンニャン隊、突撃ニャ!!」



 ニャー!と吼えながら特攻するボクたちに気が付いたリオレウスが立ち上がり同じく咆哮を放つけど、ボクには通用しない。走って高く飛び頭に一撃を与えるとすぐさま足下に潜り込んだ。振り回されるリオレウスの尻尾をかわしながらテッカとカワセミが頭部めがけて攻撃を繰り出し、エールは背後から爆弾を放り投げる。
 リエンはというと、ボクらの猛攻に混じるタイミングを失ってしまったのか、攻撃の輪に参加できないでいた。でも立ち尽くしているわけではなく、ボクらの動きを観察しているようにも思えた。

「リエン! 何ぼさっとしてるニャ、攻撃に参加するニャ!!」

 カワセミが白い飾り髪を揺らして怒鳴る。それでもリエンは動かない。モンスターに怯えているのではなく、何かのタイミングを計っているようだった。ボクらの攻撃にやがてリオレウスが怒りを露わにし、翼を広げて飛行体勢に入ったと同時にリエンが駆けだす。

「モーナコ! 武器を頭の上で横に構えるニャ!」
「ニャ? こうです……ニャ!?」

 言われた通りにプーンギを横に持ち頭の上で構えると、ボクの目の前に走り込んできたリエンが飛び上がりプーンギを踏んで更に高く飛んだ。いきなり頭上に乗り上がってきたので驚いたけど、どうにか連携が上手くいったみたいだ。

「命中率95%、成功率80%! ここニャーー!」

 ピックをリオレウスの首もとに叩きつけると、飛び上がる寸前だった翼がビクビクと震えた。苦しそうな声をあげながらわずかに体を動かしている姿は、まるでシビレ罠を踏んでしまったかのようだ。

「リエン、一体何をしたんですニャ?」
「麻痺の状態異常攻撃ニャ。テッカとカワセミが攻撃して鱗がはがれた部分に痺れ毒を塗り付けたから速攻性はバツグンなのニャ」
「なるほど、ただサボっていたわけじゃなかったってことニャ」

 動かずじっと見ていたのはどこに攻撃をすればいいかを見定めていたようで、ジャンプして的確に攻撃を与えられるタイミングも図っていたリエンはアシストの力に優れていた。珍しくカワセミが感心している。こんな大チャンス、逃さない手は無い。

「今ニャ、エール!」
「行くニャー!! 憤怒大タル爆弾ニャーーーーー!」

 テッカが指示を出す前から既に行動を起こしていたエールが巨大な爆弾を頭上に乗せて突進する。ただあの爆弾は威力が高い分とても重くて、頭に乗せたら自分も爆発に巻き込まれてでも投げ落とすしか解放される手段は無い。
 新調したばかりのジンオウネコの鎧が黒こげになってしまったらエイドさんががっかりするのではないかと思うけれど、ボクらの攻撃手段の中で一番破壊力のある特技なのでここはエール頼みだ。

「ウニャーーーーー!」

 リオレウスの目の前に爆弾を叩きつけるとハンターの使う大タル爆弾並の爆風が起こる。ボクはすぐに回復笛を使いエールのダメージを軽減させたけれど、目の前に待避したエールのレビテライト鉱石のような綺麗な碧色の鎧は黒いまだら模様になってしまった。

「おニューが台無しニャ」
「傷があってこそ戦士の勲章ニャ。お疲れさまニャ、エール」

 へこんでいるエールにテッカが優しく慰めてやっていると、リオレウスの痺れが解けた。ぶるぶると首を振るわせボクらを睨みつけたけれど、すぐに飛び去って行った。どうやらここに留まることを諦めたらしい。
 空中を漂うリオレウスの影が小さくなり、やがて見えなくなると全員で武器を空に掲げて勝利のポーズを決めた。

「任務完了ニャ、みんなお疲れニャ」
「お疲れニャー!」

 テッカの号令に武器を背負いみんなでハイタッチをする。リオレウスが再びやって来ないように物を置いて侵入されないようにすることを村の同胞に提案し、ボクらは火山を去ることにした。

「あ、これ……。」
「どうしたニャ? これは【端材】ニャ。せっかくだからもらっていくニャ」

 リエンが気にしていたのは爆風で剥がれたリオレウスの鱗。ハンターの武具の素材にするにはボロボロで使えないけれど、ボクらオトモアイルーの武具に使うことはできる。武具欲しさにリエンが地面に手を伸ばそうとするけど、ボクらのことを気遣ってか迷っている様子だった。

「今回の功労者はリエンニャ。だからリエンがもらっていけばいいニャ」
「僕がもらっていいニャ? カワセミは必要じゃないニャ?」
「ボクはこのキリンネコ防具が一番ニャ」

 カワセミの後押しにリエンは火竜の端材をポーチにしまう。今から戻れば大連続狩猟に向かったハビエルさんたちも戻っている頃にチコ村に戻れるだろう。

「依頼は大成功ニャ。みんな、胸を張って帰るニャ」
「オー!!」



 チコ村に戻ってテントで休んでいたワカ旦那さんに依頼が無事終えたことを報告すると『お疲れ様』と労いの言葉をかけられた。するとリエンがワカ旦那さんの元へ近づき、ちょっと戸惑いながらもワカ旦那さんのハチミツ色の目をしっかりと見据える。

「ご主人様が心から笑えるようになったのはワカさんのおかげだ、と言っていたニャ。僕、ワカさんを信じたいニャ。そしてこれからみんなの旦那さんも信じていきたいニャ」
「……! ありがとう、リエン」

 すっと右手を差し出してリエンの頭に触れる。リエンは嫌がること無く、寧ろ嬉しそうに撫でやすいよう頭を少し垂れた。ワカ旦那さんはその対応にハチミツ色の目を細め、ボクらにも目線を配る。大きな怪我も無く、見た目だけで言えばエールの鎧が焦げてしまったぐらいしか目立った傷も無いことを確認して安心していた。

「それで、何かいい報酬はあったか?」
「火竜の端材をもらったニャ、これで防具をつくれるニャ?」
「もちろん。【レウスネコ】もあるし……そうだ。ちょっと待っててくれよ」

 腕を伸ばして無造作に置いてある本を取り出す。表紙に描かれているのはどんぐりネコ、マフモフネコ、ユクモノネコ防具を着た三人のアイルーたち。武具の絵をまとめたオトモ専用の参考書だ。
 ぱらぱらと何回かページをめくると、顔が隠れてしまうほど深くかぶった赤い羽帽子と赤いスーツを着たアメショのアイルーの絵を指した。

「火竜の端材ならレウスネコもつくれるけど、こんなのもあるんだ」
「これは、ギルドナイトですニャ?」
「そう、【ギルドネコ】って防具だ。お前はどちらを着たい?」
「僕……僕、ギルドネコがいいニャ。レウスネコもカッコイイけど、真っ赤なスーツのギルドネコもカッコイイニャ!」
「バルバレに戻ったら端材を持ってフィスちゃんに頼んでみるんだ。武勇伝もお土産にするんだぞ、きっと喜ぶだろうから」

 リエンが自分に打ち解けてくれたのが嬉しいのかニコニコしているワカ旦那さんを見たらちょっと嫉妬心がわいたけれど、表に出すのはみっともないのでひたすら我慢した。せめてもの抵抗で話題を切り替える。

「ワカ旦那さん、そろそろバルバレに戻るんですニャ?」
「そうだな。おっちゃんたちの依頼も順調に行けばあと一日ぐらいで戻って来られるはずだから、今から戻ればみんなでお出迎えができそうだ」

 チコ村のみんなにお礼とお別れを告げて、ボクらはバルバレへ戻った。
 ボクはワカ旦那さんと一緒にテントに戻ったけれど、途中で寄ったハビエルさんたちのテントに人気は無くまだ戻ってきていないことを意味していた。それなら集会所で到達を待とうとワカ旦那さんをテントに残してオトモアイルーたちで向かうことにした。





 だけど日が沈むまで待ってもハビエルさんたちが姿を見せることは無かった。いくら大連続狩猟という危険な狩りとはいえ、ハビエルさんたちの力なら問題無く狩れるだろうし今回はグリフィスさんもいる。だからちょっと寄り道しているだけなのだと考え直す。

 それから二日後、ハビエルさんたちは一人も欠けること無く無事に戻ってきた。けれどそこで告げられたある報せがボクとワカ旦那さんの関係に大きな変化を与えることになるなんて、その時は思いもしなかった。
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