狩人話譚

□ ボクとワカ旦那さん[2] □

ボクと太刀使いさん【2】

 荷車は、今までに行ったことの無い場所へ向かっていた。移動距離は数日間に及ぶので荷物も多く、それらを乗せる荷車もいつもより立派なもので、アプトノスを2体も用意された。ゴトゴトと揺れる荷車はゆっくりと過酷な狩りへ導いているみたいで、嵐の前の静けさとはこういうものなのかと思う。
 グリフィスさんが持ってきたギルドからの通達。それに書かれていた依頼の内容は、ボクらの想像を絶するものだった。

【黒龍ミラボレアスの討伐】

 ワカ旦那さんが語ったおとぎ話の存在でしかないと言われるモンスター。それが、実在していた。姿を見て生きて帰れた人はいないはずだったのに、目の前に実際に戦って、生還したハンターがいた。そのハンターが……グリフィスさん。
 目的地である【シュレイド城】は遠く、その間にグリフィスさんはアプトノスを引く手綱を操作しながら、少しずつ経緯を話してくれた。

 今から三年前、【ポッケ村】というここから遠く離れた村の専属ハンターだったグリフィスさんは、ミラボレアス討伐の依頼を受けて急きょ編成されたハンターたちと共にシュレイド城へ行き、ミラボレアスと対峙した。
 だけど強力な炎のブレスを受けて仲間たちは即死、グリフィスさんも重傷となり、仲間たちは目の前でミラボレアスに喰われてしまった。その後ミラボレアスは何もせずに去ったのでグリフィスさんは喰われずに済んだものの、ある人に助けてもらわなかったら大火傷で命を落としていたという。
 結果的にミラボレアスは姿を消したのでその地域の脅威は去り、グリフィスさんだけはなんとか生き残ったのに、ギルドはこの狩りを別の超大型モンスターの討伐ということにして、撃退するために使った兵器が暴発して全員が死亡したと嘘の情報をつくりあげてミラボレアスとグリフィスさんたちの存在を徹底的に隠した。
 それによってこの日、グリフィスさんはハンターの地位も、仲間も一瞬で全て失ってしまったのだった。
 今回のミラボレアスはまさにその3年前に会った個体そのものらしい。二本ある角が大きく成長し、特に右側が膨らんでいるのが特徴で、ギルドの情報によるとその特徴と一致する外見だそうだから。

「私は故郷では死んだことになっている。もちろんハンターの登録も抹消。無理に戻ったところでギルドナイトに始末される可能性もあったから、あの場所で生き抜く手段は無かった。だから奴を追いかけるために、ずっとフリーで活動していたの……。あの日から私の人生は狂ってしまった。だけど三年、三年もかけて追い続けて……やっと見つけた。全ての仇」

 背を向けるグリフィスさんから感じ取れるのは、怒り、悲しみ、そして憎しみ。モンスターに恨みを持つハンターが多いことはワカ旦那さんやハビエルさんのことでよくわかっていたつもりだったけれど、グリフィスさんの話は聞いていてとても辛かった。
 ミラボレアスの依頼を受ける前に同じくミラボレアスと接触したらしいハンターと会ったそうだけど、命からがらで助かったものの心が壊れてしまって人として生きていくことができなくなってしまったらしい。そんな恐ろしいモンスターに、グリフィスさんは果敢に再戦を挑もうとしていた。
 依頼書を見せられ、グリフィスさんに同行を頼まれたワカ旦那さんが快諾したのには驚いた。ボクは正直行かないでほしかった。ハビエルさんの時とは違う、ワカ旦那さんの武器の一つである『知識』が無い相手。しかも『逃れられない死』なんて不気味なものを司る。嫌な予感ばかりして何度もボクは考え直すようにお願いしたけれど、ワカ旦那さんはボクの願いに首を縦に振ってくれなかった。

「これが俺の“在り方”なんだ」

 そう言ってワカ旦那さんはグリフィスさんと共にバルバレを去ろうとしたので、ボクもたまらず追いかけた。ハンターに比べて弱いこの体ではミラボレアスにあっけなく喰われるかもしれない、だけどボクはそれ以上にワカ旦那さんの傍を離れることが怖かった。
 失った記憶を取り戻した代わりにボクと会った頃の記憶を忘れてしまった時のように、ふらりと消えてしまいそうな気がしたから。



 無尽蔵ではないアプトノスの体力を考慮して、一休みしている間に話は更に進む。グリフィスさんがミラボレアスと刃を交えたのはほんの少しだったそうだけど、黒い鱗はとても硬く生半可な切れ味の武器でははじき返されてしまうと教えてくれた。だけどワカ旦那さんは少しも不安視していない。その理由はボクも知っている。

「それなら心配はいらない。狩猟笛の旋律にグラビモスの腹を殴ったって弾き返されない力を得るものがあるんだ」
「【心眼】の旋律があるの?」
「全ての狩猟笛に備わっているよ、これにもな」

 ワカ旦那さんが今回持ってきた狩猟笛はモンスターの素材ではなく金属質の素材でつくられていて、笛には見えない不思議な形をしていた。
 てっぺんに金色の円盤が付いているけれど、あちこちが欠けていてギザギザだ。欠けた円盤の一部は下地のような黒いものが見えていて、細い線が赤と黄色の2色に交互に点滅を繰り返している。見慣れない形状にグリフィスさんも興味を持ったようで、身を乗り出して円盤に触れた。

「これも狩猟笛なの……?」
「【アヴニルオルゲール】。天空山に採取の依頼で行ったときに偶然見つけてさ、風化していたけど磨きあげてここまで仕上げたんだ」
「へえ……オルゴール、かな。なんか光ってるね」
「演奏すると何かの文字が浮かぶんだけど、全く読めないし古代の文字なのかもな。そういえばフィスちゃん、バルバレを出る時に何か受け取っていなかったか?」
「……これね」

 立てかけていた太刀を手に取ると、ボクたちに見せてくれた。虹色に光る鞘。その色を見てボクもワカ旦那さんもはっとした。この虹色に反射する素材に見覚えがあったから。

「貴方たちが前に狩ったシャガルマガラそのものからつくりだされた【THEジャスティス】。受付嬢が預かっていたみたいで……。」
「あの時のシャガルマガラから? 武器をつくって渡す権限を持ってる人なんて、一体誰が」
「目星はついているわ。余計なことばかりするんだから……。」

 ため息をつきながらも太刀を大事そうに持つグリフィスさんの脳裏に描かれている人は誰なのだろうか。少しの間を置いて、ゆったりとくつろいで体力が回復したアプトノスたちの様子を確認したグリフィスさんが出発の号令を出した。

「そろそろ出発するわ……。もう少しで着くはず」

 再び荷車を動かし、グリフィスさんの言った通りあれから数十分といったところで目的地のシュレイド城が見えてきた。
 どんよりと暗い空はマカライト鉱石とカブレライト鉱石を砕いて混ぜたような不思議な色合いで、綺麗にも不気味にも感じる。城壁はあちこちがボロボロで、これが移動中に聞いたたった一体の龍によって滅ぼされてしまった王国の姿なのだと実感して、ボクは、とんでもない相手に戦いを挑もうとしているのだと改めて自覚した。



 かろうじて崩壊を免れた石で造られたお城の通路を歩く。あちこちに崩れ落ちた石が転がっていて、ここもいずれ崩壊してしまうのではないかと思ってしまう。ある程度歩いたところで、少し開けた所に出た。明るくなったと思ったのは、天井が崩れて開けた状態になっていたからみたいだ。

「これは、ここの兵士が使っていた武器か?」

 ワカ旦那さんが興味深げに見ているのは、鎖でつなぎ止めている大剣やランス。ここはミラボレアスと戦うために用意していた武器庫だったのかもしれない。だけどこれらはみんな錆びていて使いものになりそうになく、この国が滅びてかなりの年月が経っていることを示していた。
 また、何重もの鎖が大きな槍を支えているのも見える。どこかで見覚えがあったなと思っていると、ワカ旦那さんも同じくそれを見上げていた。

「まさか【撃龍槍】がこんなところにもあるなんて」
「ミラボレアスの体高はかなりのものよ……。そこのブレイズブレイドやアイアンランスはもう使えそうにないけど、これはまだ現役みたいね。直撃させることができれば大きなダメージを与えられるはず。ワカ、使い方は知ってる?」
「撃龍船に乗ったことがあるから大丈夫だ。あとはスイッチと槍が装着されてる場所を把握しないとな」

 撃龍船はボクも一緒に乗ったことがある。砂の海を走る巨大な古龍、【豪山龍ダレン・モーラン】の討伐の時だった。巨体を相手にするためにはこの撃龍槍や大砲、バリスタといったハンターの武器ではなく船の設備をフル活用するという特殊な狩猟内容だったと記憶している。そのときの経験が生かされそうだ。

「ん、バリスタもあるんだな。ナコ、来てくれ」

 いつの間にか壁際で何かを調べているワカ旦那さんに呼ばれて追いかけると、支給品を入れておくボックスの中にバリスタの弾が山積みで入っていた。先ほどの武器とは違い、比較的新しく見えるのは気のせいだろうか。弾を手に取り具合を確かめて、ワカ旦那さんは安心した表情で頷く。

「うん、これなら使えるな。弾がここにあるってことは、バリスタ本体もあるだろうからこれを持って行ってくれ。バリスタの弾の威力ならある程度通じるだろうし、お前も接近して戦わなくて済む」
「わかりましたニャ」
「全部は持ち運べないからな。運べた分だけ撃ったらすぐここに戻って、また弾を持って戻るんだ。一度目の前からいなくなることでミラボレアスからの標的からも逃れられる」
「……ワカ旦那さん」

 遠くからの支援攻撃、一撃離脱の戦法。ボクの身を案じてくれているのは本当に嬉しい。だけど、ワカ旦那さん自身は自分の身をどう守るのだろう。

「二人とも、準備はいい……?」

 グリフィスさんに声をかけられて振り向くと、グリフィスさんの目線は奥に繋がる階段へ向けられていた。見つめられている奥からとても不気味な気配を感じる。ミラボレアスが近くにいるのかもしれない。
 ワカ旦那さんはグリフィスさんの両肩に手を置き、ハチミツ色の目でじっとグリフィスさんを見つめた。

「フィスちゃん。生き残って、みんなで帰ろう」
「…………。」
「頼む、返事をしてほしい」
「わかったわ……。奴を狩ったら未練は無いけれど、もし無事に狩りを終えたら……、またどこかで会いたいわね、ワカ」
「うん、ありがとう」

 二人のハンターがゆっくりとたいまつに照らされた階段を上る。ガララアジャラの防具を身に付けた狩猟笛のハンターと、ジンオウガ亜種の防具を身に付けた太刀のハンター。ボクはこの二人と共に、黒龍伝説に挑む。
 どんな結末を迎えようとも、絶対に受け止めなければいけないと強く思った。



 階段を上りきると、城壁に囲まれた広い場所に出た。暗い空はそのままで、遠くにはかつてこの国に住んでいた人の住処であろう建物が点在している。バルバレも人がたくさん行き交う町だけれど、それ以上の規模だったのだと思うとこの国を滅ぼしたミラボレアスがどれほどの力を持っていたのかということを思い知らされる。

「あった、バリスタだ」
「こっちには撃龍槍もあるわ。スイッチはこの上の高台に設置されているみたい」
「この設備の充実ぶりだと、ここは迎撃拠点だったのかもな」

 辺りへの警戒も怠らずに設備を確認するワカ旦那さんとグリフィスさんはとても冷静だ。ボクも担当となるバリスタを確認しつつ周りをきょろきょろとしていると、視界の隅で何かが揺らめいたので思わずその方向を向いた。

「……?」

 黒くて細い何かがゆらりと動いた気がしたけれど、そこには何も無い。気のせいだったのだろうかと考え直し、2人と合流して中心部に集まった瞬間。

「――――!」

 二人とも気配にはっとして武器に手を添える。ボクも同じ方角を見ると、黒い鱗に覆われた龍の頭が柱の陰から伺うように首を伸ばして覗いていた。

 これが、【黒龍ミラボレアス】――!

 ボクらが気づいたと見ると高台から体をずるずると下ろし、全身を見せつける。 縦に細長い胴体にリオレウスのような大きな翼を生やしていて、鋭い爪を生やした前脚が地面を抉る。その姿は物語で見た古龍【鋼龍クシャルダオラ】のようだった。
 余裕があるのかボクら三人をじっくりと見下ろすと、鋭い牙を少し見せながら舌なめずりをしてこれからボクらを喰らってやると宣告するかのような表情を見せる。
 それに反応して太刀を一気に抜くグリフィスさんは、きっと喰われてしまった仲間のことを思い出したのだろう。先手必勝と踏み込もうとしたけれどミラボレアスの咆哮が勝り、動きを縛られてしまった。咆哮に耐性があるボクとワカ旦那さんも、ビリビリと感じる殺意に怯んでしまうほど。

「フィスちゃん、撃龍槍を!」

 いち早く動いたワカ旦那さんがグリフィスさんの手を引く。撃龍槍は大がかりな仕掛けのため、一度起動させたら再び使用できるようになるまで時間がかかる。だからできるだけ早く使って、少しでも多く使えるようにしたい。
 グリフィスさんがスイッチのある高台に登ったけど、ワカ旦那さんはその真下、撃龍槍が装着されている二本の穴の隙間に立った。

「何をしているの、ワカ! 登って!」
「俺がここで演奏をして引きつける。フィスちゃんは隙を見てスイッチを押してくれ」
「……気を付けてよ」
「囮は慣れてるから、大丈夫だ」

 そう答えてキン、と金属質の音を立てながらアヴニルオルゲールを右肩に乗せ、力強く振るって旋律を集める舞を踊り始める。奏でられる音色は狩りの場には似つかわしくないくらい綺麗で、繊細だった。
 ミラボレアスは撃龍槍の手元に陣取るワカ旦那さんとその上の高台で構えるグリフィスさんに気づいたみたいだけど、無防備に演奏を繰り返すワカ旦那さんに狙いを定めたようで首を地面に近づけ様子を窺っている。バリスタの陰に隠れたボクは、ハラハラしながら様子を窺った。

【防御力強化[大]】
【風圧完全無効】

 二つの旋律を奏でたところでミラボレアスが四つん這いになってズルズルと這いずって向かってきた。ミラボレアスの脚に引きずられて床がベキベキとめくれあがる。あの体の大きさで全体重をかけているのだ、乗りかかられたら潰れてしまうだろう。

「ワカ! 避けて!!」

 グリフィスさんが叫びながら撃龍槍のスイッチをピッケルで叩きつける。ギャリギャリと音を立てて鎖が外れ、ワカ旦那さんの両側に備えられていた穴から巨大な槍が飛び出すとミラボレアスの体に捻り込むように突き刺さった。
 両肩の鱗を力強く抉る二本の槍に、ミラボレアスが悲鳴をあげながら倒れると同時にピッケルを放り投げたグリフィスさんが高台から飛び降りながら太刀を抜刀しながら斬りつけ、間一髪のタイミングで壁によじ登っていたワカ旦那さんも降りて頭部めがけて狩猟笛を叩きつける。もちろん、まだ吹いていなかった自己強化の旋律演奏も忘れずに。ボクもバリスタの弾を大きなボウガンの形をした本体に取り付け、二人に当たらない位置に狙いを定めて発射させた。
 動けないでいたのも少しの間で、ミラボレアスがむくりと長い体を起こしたのを見計らって二人も退避して距離を置く。

「今ので効いたのか?」
「確実にダメージは与えたはず。頭を狙えるチャンスは少ないし、ブレスの脅威に晒されるだけだから正面だけは絶対に避けて」
「それじゃ後脚が安全に攻撃できる部位か……俺は左を狙う、フィスちゃんは右を」
「わかったわ」

 ほんの少しのやりとりを経て再び走り出す。後ろ脚で立ち上がっている今の体勢ならバリスタで狙えるはず、と頭目がけてバリスタを放ったけれど読まれていたのかふいと長い首を振られ、かわされてしまった。

「ナコ! 狙うなら翼を……下がれっ!」
「わかりましたニ……ニャアアァッ!?」

 返事をしようとした瞬間ワカ旦那さんの必死の形相が見え、反射的に体が後方へ飛ぶ。それと同時に大きな火の塊がバリスタにぶつけられ、その衝撃でボクは更に後ろに飛ばされてしまった。ゴロゴロと転がり、目が回る。

「う、うう……っ」
「無事か、ナコ!」
「大丈夫ですニャ!」

 後ろの壁に体をぶつけてしまい息が苦しくなったけれど、この程度で動けなくなるほど柔な体ではない。大きな声でワカ旦那さんが呼んだので起き上がって手を振って応じた。直撃しなくても衝撃で吹き飛ばされてしまうなんて、リオレウスやリオレイアのブレスより凄まじい威力だ。
 バリスタに火球が当たったみたいなので確認すると、本体にちょっとヒビが入ったようだけどまだ動かせる、まだ戦える。

「お返しですニャ!」

 足下で動き回るワカ旦那さん、グリフィスさんと戦うミラボレアスの翼膜に反撃の矢を放ったところで、弾が尽きてしまった。すぐに弾を補充しなくてはいけない。
 ミラボレアスの長い尻尾が鞭のようにしなり、グリフィスさんを弾き飛ばす。短い悲鳴が聞こえたけれど、すぐに体勢をたて直して反撃に転じていた。それを見たワカ旦那さんは狩猟笛を背負うとポーチから生命の粉塵を取り出し、風向きを見定めて放ってグリフィスさんの傷を癒している。
 いつどうなるかわからないこの狩猟において、二人が戦っている場から離脱するのはとても怖い。だけど、このままのボクは戦力にならない。ミラボレアスの体力がどれほどなのかもわからないので、長期戦になる可能性だってある。そうなると不利になるのはボクらなのだから、とにかく攻めるしかない。

 意を決して地下へ進む階段へ走る。支給品ボックスからバリスタの弾を入るだけポーチに詰め込み、急いで戦場へ戻るとグリフィスさんが登り口にいた。ワカ旦那さんがミラボレアスを引きつけている間に切れ味が落ちてしまった太刀を研いでいたようだ。

「ナコ君、無事?」
「元気ですニャ。グリフィスさんは大丈夫ですニャ?」
「私も平気、まだまだ戦えるわ。いくらか攻撃を受けてしまっているけど」

 そう話すグリフィスさんの鎧はところどころヒビが入っていて、瓦礫の砂を浴びていた。今までの狩りで見たことの無い損傷具合に、ミラボレアスがグリフィスさんほどのハンターでも苦戦する相手だということを見せつけられる。

「ワカの旋律のおかげで被弾してもダメージを抑えられている。攻撃のペースは遅いけど、手厚いサポートは流石といったところね」

 今回のワカ旦那さんの狩猟笛は防御力を上げる旋律やスタミナの消費を無効化する旋律を持っている。攻撃力と防御力を少しずつ上昇させる旋律もあるそうだけど、ミラボレアスの攻撃力を気にかけて守りを固める態勢にしたようだ。
 THEジャスティスが元の切れ味を取り戻したところでグリフィスさんが立ち上がり、駆け出す後ろ姿を見送りながら再びバリスタに弾を装填した。



 戦いは長く続いた。ワカ旦那さんのスタミナ減少無効の旋律の効果のおかげでなんとか疲労困憊になる事態は避けているけれど、ミラボレアスは弱る気配を見せない。
 支給品ボックス、更には本体近くに落ちていた使えそうなものを拾えるだけ拾ったにも関わらずバリスタの弾がとうとう尽きてしまい、ボクもミラボレアスに近づくほか無くなった。だけど二人の邪魔にならないように武器をブーメランのように投げつけるのが精一杯。
 二人の集中力も途切れ途切れになってしまったところで、ミラボレアスが突然動きだした。

「――――!」

 ミラボレアスのブレスの衝撃でグリフィスさんの体が飛び、素早く振られた尾がワカ旦那さんの体に叩きつけられる。ダメージを受けた二人を回復しようと回復笛を取ろうとしたけれど、ミラボレアスが四つん這いの姿勢で起き上がれないグリフィスさんを押し潰そうとしていることに気がついて即座に駆け出す。今の姿勢なら、届く!
 段差から勢い良く跳んでガシッとしがみつくとそれはぐんと起き上がり、支える天井を失った柱のてっぺんすら見えるほどの目線の高さになった。

「なっ……ナコ!?」

 ワカ旦那さんの驚いた声が真下から聞こえる。
 ボクが乗ったのはミラボレアスの頭。
 長い首の先にあるこの頭部は鋭い爪も届かないし、ブレスも吐きようが無い。ミラボレアスの両目を覆って攻撃の手を止めている間に二人には態勢を整えてほしい、そう強く思いながらボクは必死に暴れる頭にしがみついた。痛む体をゆっくりと起こしたグリフィスさんは距離をとって回復薬を口に含み、ワカ旦那さんは柱の陰に駆け出す。
 よし、あとはせめて攻撃を、とガララネコプーンギを黒い空にかざした瞬間、ミラボレアスが長い首をブンと力強く捻ってボクの体を一気に振り落とした。片手を空けてしまったのでしがみつく力が足りなかったみたいだ。やっぱりオトモアイルーが乗り攻撃をこなすのは無理なんだな、と空を舞いながら思った。

「ウニャアアアアアアッ」

 視界がひっくり返り、驚いた様子の逆さまのグリフィスさんが見えた。そしてワカ旦那さんは……血相を変えていた。振り落とされたボクを心配したからではなくて、ミラボレアスが柱の陰にいたワカ旦那さんを視界に捉えていたから。

「くっ……!」

 何か大きなものを取り出していたらしいワカ旦那さんの焦った声が聞こえる。逆さまの視界では何をしているのか把握するのも難しいけれど、ワカ旦那さんが狙われたことだけは確かだった。
 背を向けたミラボレアスの、ボクを振り落とした頭の影から炎が漏れている。ブレス発動の兆候。

「間に合え――!」

 かすかに聞こえた声は、凄まじい爆音と高温のブレスで歪んだ視界にかき消されてしまった。
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