狩人話譚

□ ボクとワカ旦那さん[2] □

ボクと剣斧使いさん【2】

(大丈夫ですニャ。ハビエルさん、今は我を忘れているようには見えませんニャ)

 ハビエルさんと一緒に尻尾を攻撃していく。ボクの武器はワカ旦那さんと同じ【打撃武器】のため、尻尾を斬る力は無い。それでもハビエルさんの担ぐスラッシュアックスの手助けになれば、と暴れる尻尾を的確に捉えて跳んでは叩きつける攻撃を繰り返した。

(それにしても、このモンスター……ワカ旦那さんを狙いすぎな気がしますニャ)

 モンスターにとって頭部を狙うハンターは最も攻撃の標的にしやすく、ハンターにとっては大ダメージを与えられるポジションであり、かつ最も危険なポジションでもある。ワカ旦那さんはモンスターの頭部を狙い目眩を起こさせて追撃を仲間に譲るのが常だった。
 だけど今回はそれぞれがずっと同じポジションを保ち続ける作戦をとっているので、頭部に張り付いているワカ旦那さんは攻撃の的にされているけれど、それでも尻尾や足を狙う別のハンターに攻撃をすることだってある。今回はその配分が明らかにワカ旦那さんに偏っていた。

(ワカ旦那さん、一体何をしたんですニャ? 無理をしてほしくないですニャ)

 隣でカシュン、と音がする。ハビエルさんがスラッシュアックスを剣の形から斧の形に戻したようだ。
 スラッシュアックスは通常は斧の形をしていて、剣の形に変えて連続攻撃や【属性解放】と呼ばれる大技を繰り出すことができる。ただし剣の形を保つ時間は限られているので時々リロードを挟まなくてはならない。それより先にボクが気にしなくてはならないものがあった。

「ハビエルさん、ウチケシの実を食べてくださいニャ!」

 ワカ旦那さんに教えられていた【狂竜ウイルス】。
 シャガルマガラがまき散らしている鱗粉に触れると、体に紫色の煙がまとわりつく。そのまま時間が経つと発症してしまい、いつもより大きな傷を受けてしまうとか。そのために早く攻撃を当てて神経を興奮させ、ウイルスを打ち消さなくてはならない。
 ウチケシの実を食べることでウイルスの進行を遅らせることができるそうなので、煙の色が克服寸前の水色ではなく初期段階の紫色のまま時間が経過しているようなら実を食べることが必要だと言われていた。
 ハビエルさんは息を荒くしながら斧の形に戻ったスラッシュアックスを振るい続ける。だけど気持ちが焦っているのか、赤土色の刃を連ねたような形の斧は空を斬るばかり。

「ハビエルさん! ハビエルさん!!」

 ああ、どうしよう。ボクの声が届かない。攻撃を当ててウイルスを克服しようとしているのか、それともシャガルマガラを倒そうと必死になっているのか、両方ともとれるハビエルさんの焦ったような攻撃にボクは何度もハビエルさんを呼んだけれど、届かない。

「――!」
「ハビエルさん!!」

 その時突然ハビエルさんの大きな体が揺らぐ。がくりと片膝をついたハビエルさんの元に駆け寄って顔をのぞき込むと、まるで毒を受けたように真っ青だった。
 狂竜ウイルスが発症してしまったみたいだけど、発症しただけならまだ動くことはできるはずなのにハビエルさんは息を荒くして動けない。もしかして、シャガルマガラがまき散らしている鱗粉に関係が……?

「ハビエル!?」

 ボクの声を聞いたのかトラフズクさんも声をあげながらやってきた。顔を上げると奥でワカ旦那さんもこちらの様子を確認して狩猟笛を背負う動作が見える。トラフズクさんも攻撃の手が止んでしまい、シャガルマガラがゆっくりとこちらを向いた。
 気配に気づいたトラフズクさんが振り向きざまに双剣を構えてハビエルさんを守ろうと立ちはだかるけれど、直後に段差を利用してワカ旦那さんが跳んで狩猟笛をシャガルマガラの頭に叩きつけた。
 一時的に動きを止めたシャガルマガラの背に張り付くと、今度は腰に付けていた剥ぎ取り用ナイフを抜いて突き刺す。暴れるシャガルマガラの背から、ワカ旦那さんの大きな声が響いた。

「ナコ、トラと一緒におっちゃんを連れてベースキャンプに戻れ! さっき教えた通りに治療するんだ。俺が笛を吹くまで安静にさせてくれ!」
「ワカ旦那さんも戻って下さいニャ! 一人じゃ危険ですニャ!」
「俺までここを去るわけにはいかない! こいつをここから逃がしちゃいけないんだ、わかってくれ!」
「ワカひとり、だめ!」
「トラ、早くおっちゃんの治療を! ここにいさせては駄目だ、毒に侵されているのと同じ状態なんだ、だから、急げ! 早くっ!!」

 そう叫んでまたワカ旦那さんはナイフを深々とシャガルマガラの背に刺す。あそこまで言われてしまったら、もうワカ旦那さんは聞く耳を持たない。ボクは覚悟を決めてハビエルさんに肩を貸すトラフズクさんと一緒にベースキャンプへ向かった。
 後方では未だにシャガルマガラが背への攻撃に吼えている。

(ワカ旦那さん……。)

 エイドさんがワカ旦那さんを呼んだ理由がわかってしまった気がして、ボクは後ろを振り返ることができなかった。



 ベースキャンプに引き返したボクたちは、すぐにハビエルさんをベッドに寝させた。相変わらず顔色は悪いけれど、禁足地にいた時よりは少し楽になっているように見える。あの鱗粉が無いからだろうか。

「ハビエル、ハビエル!」
「…………。」

 心配そうにトラフズクさんがハビエルさんの名前を何度も呼び、それにハビエルさんが口元をわずかに緩ませて応えている。二人の様子を窺いつつボクはワカ旦那さんに言われていたことを思い出していた。

(狂竜ウイルスに完全に侵されてしまったら、瞬時に治す手だては無い。俺が調べてわかっているのはせいぜい完治までの時間を短縮させられることぐらいだ。

 まずは【ホットドリンク】で身体を温める、そうすれば血液の流れも良くなるから次に【漢方薬】を飲ませるんだ。ウイルスの力を弱めたら今度は【回復薬グレート】。失われた体力を取り戻すためだから、できれば回復効果の強いものがいいけど【秘薬】は貴重だから使いどころを考えた方がいい。最後に【ウチケシの実】を。これで一気にウイルスによる侵食を相殺させるんだ。

 大事なのは順序もだけど、何よりハンターを安静な状態にさせることだ。ベースキャンプで横になれば心身が楽になる。その状態で治療を行えば効果てき面のはず。頼んだぞ、ナコ。身体の小さいお前はウイルスに侵される心配が無い、もし俺が治療をできないときはお前がおっちゃんかトラに指示を出してやるんだ)

 思い出した通りに、トラフズクさんにハビエルさんに与えるものを伝える。トラフズクさんもボクの指示に目を白黒させながらも、一生懸命ハビエルさんを助けるために丁寧に治療をしてくれた。そのかいもあって、少しずつ苦しそうだったハビエルさんの呼吸が落ち着いてきている。
 申し訳なさそうにボクらを見つめているハビエルさんに、安心できるように精一杯の笑みを送った。

「大丈夫ですニャ? ハビエルさん、元気になってきましたニャ」
「…………。」
「よかった、ハビエル」

 身体の調子がだいぶ良くなったのか、ゆっくりとハビエルさんが上体を起こす。ふう、と息を吐くと黒ずんだ空を見つめていた。シャガルマガラの咆哮がかすかに聞こえる。
 ワカ旦那さんは、今も一人でシャガルマガラと戦っているのだろうか。するとハビエルさんが立ち上がろうとしたので慌てて座らせる。

「ハビエルさん、まだ行っちゃダメですニャ。もう少し体力を回復させてからでないと」
「モーナコ、ワカ、しんぱいじゃない?」
「心配……しないわけが無いですニャ。でも、ワカ旦那さんならきっと大丈夫ですニャ」

 主を心配しないオトモアイルーがいるわけが無い、だけど主を信頼しないオトモアイルーもまたいるわけが無い。だからワカ旦那さんの笛の音が聞こえるまで休まないと。ハビエルさんだけではない、トラフズクさんとボクの体力も。

「ボクはワカ旦那さんを信じていますニャ。それよりハビエルさん、聞いてくださいニャ。きっと、ワカ旦那さんは……。」

 ボクは途中で言いかけた言葉を止めた。笛の音が響いたから。
 だけど、その音は途切れてしまった。
 それを意味するのはたった一つしか無い、演奏を妨害されたということ。

「ワカがあぶない!」

 トラフズクさんの声にハビエルさんも立ち上がり、スラッシュアックスを背負う。見た感じ足取りもしっかりしてる、大丈夫。だから――

「ワカ旦那さん!!」

 ボクは急いであの戦地へ走った。



 下の地面から光の柱があちこちから吹き出しては黒い空へ向けて放たれている。シャガルマガラが怒っている、そんな風にボクには見えた。慌ててハチミツ色の鎧を捜すと、壁のようにそびえ立つ大きな岩の下にワカ旦那さんが背を預けてうな垂れた状態で座り込んでいた。動かない、まさか攻撃が直撃して……!

「ワカ旦那さん!!」

 岩の奥ではシャガルマガラが怒りの咆哮をあげている。ボクの叫び声に反応したのか、ワカ旦那さんの頭がゆっくりと動いたのを確認するとハビエルさんとトラフズクさんは攻撃に転じ、シャガルマガラの方へ向かって行った。

「ワカ旦那さん、大丈夫ですニャ!?」
「ナコ……? しまった、笛は」

 顔を上げるとワカ旦那さんのおでこの左側から血がこぼれ落ちた。クチバシのような兜の左側に鋭く抉られた跡がある。あの光の柱によって兜ごと傷つけられたみたいだ。すぐに立ち上がったのでどうやら大きなダメージではないみたいで安心したけれど、狩猟笛が見当たらない。
 すると手前からバシュ、という鋭い音と同時に突然目の前に何か小さいものが飛んできたので思わず顔を伏せて目を閉じてしまった。

「ニャッ!?」

 カン、と高い音を立ててそれはボクの兜に命中した。兜を身に付けていて良かった。小石でも飛んできたのだろうか、辺りを見回すとそれは石ではなかった。銀色に光る金属質の小さな筒。
 一体これは何だろうと思っていると、少し先の草の中からワカ旦那さんが狩猟笛を手にとっている。先ほどの音はあの辺りから聞こえたことから、あちこちから吹き出す光の音がそれだと理解できたところで、ワカ旦那さんに拾い上げたものを見せる。

「ワカ旦那さん、これ……」
「!!」

 ボクが見せたものを見てワカ旦那さんがハチミツ色の目を見開く。狩猟笛と小さな金属を交互に見て、苦々しい顔で呟く。

「あいつ、最初からこれを狙っていやがったな……!」
「ワカ旦那さん、これは何ですニャ?」
「ナコ、それをポーチに入れておいてくれ。絶対に無くすなよ」
「大事なものなんですニャ?」
「ああ、それは“マウスピース”だ」
「まうすぴーす?」
「狩猟笛に息を吹き込むパーツだ」
「!!」

 息を入れるパーツが壊された、それはつまり――

「それじゃもうその笛は……」
「演奏はできないから旋律の効果が切れたらおしまいだな、早くあいつを狩らないと」

 ワカ旦那さんが維持してきた旋律、今回は咆哮と風圧から守ってくれるものと、ワカ旦那さん自身の移動速度を早めるものの2種類。
 前者はともかく後者はワカ旦那さんの生死に関わるものだ。何せジンオウガ亜種との戦いでワカ旦那さんはこの旋律の維持を怠ってしまったために回避が遅れて強烈な一撃を浴びてしまったのだから。旋律の効果が失われてしまったら、ワカ旦那さんは普段通りの力を発揮できなくなってしまう。気がつけば風圧から守ってくれる鎧は消え去っていた。
 重要なパーツを破壊されてしまった狩猟笛を見ると、確かに吹き込み口が欠けているのが見えた。よく見れば筒は二本あるのだけれど、一本が壊れたことにより息がうまく吹き込まれず音が漏れてしまうのだろうか。

「まさか演奏の隙を狙って俺の足下から攻撃して、笛を手放してしまったところでマウスピースだけを破壊するなんて……さすがは古龍、賢いな。それも先に笛を狙うなんて、完膚なきまでに俺を叩きのめしたいみたいだ」

 窮地に立たされているのにどこか余裕があるように見えるのは、ワカ旦那さんに心強い仲間がいるからだろうか。狩猟笛を担いでハビエルさんたちの元へ駆けだしたので、ボクもすぐに追いかけた。

 さっきまでワカ旦那さんを狙っていたシャガルマガラは、今度はトラフズクさんをターゲットにしたようだ。トラフズクさんも身軽な動きで反撃をしつつ攻撃をかわしていたけれど、すっと身を低くすると突然刃を天へ向けた。それと同時に赤い光が双剣を包み、禍々しくなる。
 ハビエルさんの援護を受けつつ攻撃を繰り返していく内に、赤い光はトラフズクさんの全身を包み込んだ。ワカ旦那さんの旋律と同じく、自分の能力を高めているみたいだ。
 身を低く身構えてから走り込んで斬りつけたり、空中でまるで踊るように回りながら攻撃を繰り出す動きは今までの狩りの中では見られなかった。真っ白だったベリオロスの鎧をシャガルマガラの返り血で赤く染めながらひたすら斬りかかるトラフズクさんはまさに鬼のようだった。

「トラ、そろそろ【鬼人強化】を解除した方がいい! こいつは怯まないんだ!」

 ワカ旦那さんの鋭い声に、見とれてしまって浮いていた意識がはっと戻される。怯まない?確かにあの歪な角が砕けた瞬間も、シャガルマガラは決して怯むことなく反撃を繰り出していた。トラフズクさんはシャガルマガラに大ダメージを繰り出す隙をつくろうと鬼人化を行ったのだろうか。

「!」

 突然シャガルマガラが声をあげながら後ろ足を支えに、大きな体を立ち上がらせる。
 いけない、この動きは!
 直後、大きな揺れとせり上がる岩に押し出され、ボクの意識は飛んだ。



 サク、と近くで何かが地面に突き刺さった音でハッと目を覚ますと、ボクはシャガルマガラが全体重をかけたのしかかりによってできた岩の壁に隠れるように倒れていた。
 今の状況を確認しようと体を起こすと、少し離れた場所でシャガルマガラはボクに背を向けていて、その足下には倒れて動かないトラフズクさん、そのトラフズクさんを庇うようにスラッシュアックスを構えるハビエルさんの姿。ワカ旦那さんは二人とは離れた場所にいた。
 トラフズクさんがダメージを受けてしまったみたいだ。すぐに回復笛を吹かなくてはと思い手を伸ばしたけれど、その動作はワカ旦那さんの声に遮られた。

「ナコ、トラの武器を使え!! お前なら……!」

 武器と言われ傍に目をやると先ほどボクの近くで聞こえた音の正体は、トラフズクさんがシャガルマガラの攻撃を受けて手放してしまった双剣の一本。黒い刃に緑の網のようなラインが光っている。
 人間の武器をアイルーが持つことはまず不可能だ。でも手数を重視するために数ある武器の中でも軽い方に位置する双剣、それも軽量化の改造をしているというトラフズクさんの一振りなら……!
 ボクは急いで剣を抜いた。ワカ旦那さんが狩猟笛を背負ったまま動かないのは、きっと旋律が切れてしまったからだろう。狩猟笛を下ろせばいいのだろうけれど狩猟中に武器を外すハンターなんているわけが無い、だからボクに託した。ワカ旦那さんはボクの力を信頼してくれているのだ。
 両手で持たないとよろめいてしまう重さだけど、急がなくてはトラフズクさんとハビエルさんが危ない。ボクは岩に向かって走り、跳んで岩を足で蹴り三角跳びの要領でシャガルマガラの後方に飛び込んだ。

「ニャアアアアアアアア!!」

 落ちながらの抜刀攻撃はシャガルマガラの尾に当たり、勢いのまま一気に斬り落とした。ブチリと音がして、斬り離された尻尾が宙を舞う。今までのダメージが蓄積されていたのがようやく成果に繋がったみたいだ。
 いくら角を破壊されても怯まなかったシャガルマガラも、尻尾を斬られた反動にはかなわなかったみたいで、ハビエルさん目がけて放とうとしていた右手の爪はやむなく地面をえぐり、そのまま前のめりにずるずると滑り込んだ。
 すぐに振り返り再び攻撃をしようとしたみたいだったけれど、振り向きざまの鼻先には剣の形に変化したハビエルさんのスラッシュアックスがあった。

「……!!」

 強く地面を踏んでスラッシュアックスを突き出しカシン、と音を立ててバチバチと光を放つ。やがて光は小さな爆発を伴うようになり、

「――……ぁぁぁぁあああああああ!!」

 ハビエルさんの咆哮と共に大きな爆発へと変わった。



 強烈な爆撃を受けたシャガルマガラの身体がのけぞり、口元からは煙が吹き出す。そのままゆっくりと地面に吸い寄せられるように横にふらりと揺れ、大きな音を立てて沈んだ。

「……ハビ、エル」

 意識を取り戻したトラフズクさんが倒れているシャガルマガラの前に立つハビエルさんに声をかけると、その声に弾かれるようにハビエルさんはトラフズクさんを抱きしめた。

「……、……、……、……」
「……ハビエル?」

 ハビエルさんの戻った声は誰かの名前を呼んでいるようだったけれど、ボクにはよく聞き取れなかった。反応からしてトラフズクさんも知らないことのようだ。
 ふと気がつくと、空が綺麗な青を取り戻していた。あの黒い空はシャガルマガラがつくりだしていたのか。

 ああ、狩ったんだ、このシャガルマガラを……。

 激闘の末に狩ったシャガルマガラを見つめる。するとハチミツ色の鱗で覆われた具足が視界に入った。

「ワカ旦那さん」
「よくやった、ナコ。本当に頑張ったな」

 嬉しそうに笑うと、ワカ旦那さんは角笛を取り出し天へ向けて吹いた。狩りの始めに鳴らしたそれとは違い、どこか悲しげに聴こえる。まるで、このシャガルマガラの死を悼んでいるような。
 プァー、プァーと角笛の音色が静けさを取り戻した禁足地に響きわたる。角笛の音を聴いたハビエルさんは立ち上がると、ワカ旦那さんに近づいてきた。

「……ワカ君」
「おっちゃん、トラも。お疲れ。おっちゃん、声が戻って良かったな」
「…………。」

 宿敵を狩り、声も戻ってハビエルさんにとってはいいことばかりなはずなのに、表情はとても険しい。トラフズクさんはそんなハビエルさんを見て不安そうだ。

「その武器、わかっていて担いできたんだね」
「…………。」

 ハビエルさんの指摘に、今度はワカ旦那さんが沈黙する。ハビエルさんはこの武器が何のモンスターの素材でつくられているのかわかったみたいだ。じっとハチミツ色の目を見られたワカ旦那さんは逃げるように目線を地面に落とし、ぽつりと呟く。

「こいつは【THEレクイエム】。ゴア・マガラと……シャガルマガラの素材でつくられた狩猟笛だ」
「えっ!?」

 驚いて思わず声が出る。空中を舞っていたシャガルマガラの翼が一瞬虹色に光っているように見えたのは間違いじゃなかった。その翼などを使ってつくられたのが、この虹色の翼のような狩猟笛。

「レクイエムは“鎮魂歌”。こいつに奪われた人たちの命を、こいつ自身の命を鎮めるために担いできたんだ。旋律も役に立っただろう?」
「そうじゃない!」

 どこか冷めたように話すワカ旦那さんにハビエルさんが声を荒げた。基本的に穏やかで優しいハビエルさんがそんな風に声を出すのを見たことが無くて、心の中に黒い雲がもくもくと膨らむような気持ちになる。

「どうして同種の素材の武器なんかで来たんだ! 古龍の賢さなら仲間の血肉でつくられた武器だと気づくはず、そうなれば攻撃は君に集中してしまう!」
「……そうだ、あえてそうしたんだよ」
「攻撃をかわしながら旋律の維持と頭部への攻撃も兼ねるなんて危険だ! ワカ君、きみは……囮になるつもりだったのか!? どうしてそんな無茶を!」
「それは俺の台詞だ!! おっちゃんこそ周りが見えていなかった! 狂竜ウイルスの克服も間に合わなかったじゃないか! こうなることを予測していたから俺は……!」
「仲間の俺を信じてくれなかったというのか、ワカ君!!」

 どんどん言い合う声が強くなる。二人とも言っていることはとてもわかる、わかるけど……。

「ハビエルさん!」
「ワカ!」

 とっさに動いたボクとトラフズクさんはそれぞれハビエルさん、ワカ旦那さんの前に立ちはだかった。このままでは喧嘩をしてしまいそうな二人を止めないといけないと思ったから。
 小さいボクに合わせるようにハビエルさんは片膝をついてくれたので、そのままボクはベースキャンプで伝えられなかったことを話す。

「ハビエルさん、ワカ旦那さんは前に今のハビエルさんと同じような状況になったことがあったんですニャ。村の仇を倒したい気持ちばかり強くなってしまって、旋律の維持ができなくなってしまったんですニャ」
「仇……?」
「それでジンオウガから攻撃を受けて、お兄さんとお姉さんたちに迷惑をかけてしまったことを、ワカ旦那さんは今でもずっと悔やんでいるんですニャ。きっと、ワカ旦那さんはハビエルさんに自分を重ねて心配したんですニャ、決してハビエルさんを信頼しなかったわけではないんですニャ」
「そうか、ワカ君も……。」

 そう言うとハビエルさんはすっと立ち上がる。さっきまでの怒っている気配は消えていた。一方のワカ旦那さんもトラフズクさんにどう説得されたのかはわからないけれど、あちらも落ち着いたみたいだ。ハビエルさんに近づくと、ちょっと気まずそうにしながらもちゃんとハビエルさんの緑色の目にハチミツ色の目を合わせた。

「……おっちゃん、その、ごめん」
「おっさんこそ迷惑かけてすまなかったね。ワカ君、ありがとう」
「全員で無事に狩りを終えられて良かった、俺こそお礼を言いたいよ」

 良かった、仲直りできたみたいだ。しっかりと握手をする二人を見て安心する。普段言い合いなんてしなかったから、険悪なムードに驚いてしまったけれど仲が良いからこそ思ったことを言い合える仲なんだろうと思う。

「みんなぁー!」

 遠くからエイドさんの声が聞こえる。空が青さを取り戻したことを判断して扉を開けたのだろうか。エイドさんにエール、シナト村の村長さんなど扉の向こう側で待っていた人たちと喜びの再会を果たすことができた。



「ほんっとうに心配したんやからね!」
「そうニャ、ワカ坊。責任とって今度エイドの狩りの手伝いをするニャ」
「ご、ごめんエドちゃん、エールも。心配かけた」

 戻りの荷車の中でも、ハビエルさんとのやりとりとはまた違う雰囲気でワカ旦那さんはエイドさんとエールにも責められひたすら平謝りしていた。
 エイドさんが感じ取ったのは、やはりワカ旦那さんが囮になろうとしていた覚悟が命を落としかねない危険を含んでいたからだったようで、バルバレを出発する前からワカ旦那さんの様子がおかしかったことにも納得できた。最初から自分を犠牲にしてでもハビエルさんを助けようとしたかったみたいだ。余計なお世話になってしまったようだけど。
 狩りを終えて、ハビエルさんはワカ旦那さんにあのシャガルマガラについて話を聞いていた。

「ワカ君、奴はやはり特別な個体だったのだろうか」
「そうだろうな。あくまで俺の推測だけど……片方の角が折れたことによって、感情のセーブができなくなったんだと思う」
「感情?」
「部位破壊をされても全く怯まなかったし、一度標的を定めればずっとそいつを狙い続ける。痛みや怒りの感情がわからなくなっていたんだ。だからこそ俺がいることであの場に釘付けにして逃走される心配は無くなったけどな」
「あの大量の狂竜ウイルスは」
「あれも能力のコントロールができなくなったからかな。恐らく普通のモンスターならすぐに息切れしてしまうぐらいの力を発揮していただろうけど、あいつは古龍だ。疲れ知らずの体にはプラスにしかならなかっただろうな」
「そうか……。」
「おっちゃん、あいつを狩って満足したか?」
「えっ?」

 ワカ旦那さんの問いにハビエルさんが固まってしまう。ハビエルさんは家族の仇をとるためにハンターになったわけではないみたいだったけれど、目的の一つであったかもしれない。

「ハビエル、ハンターやめるのか? おれ、さびしい」
「トラ君……。」
「モンスターハンターは命の危険と引き替えに大量のお金を得られる職業だ。ある程度稼いだら身を引いて別の仕事を探す人もいるらしい。おっちゃんは、どうするんだ?」
「…………。」
「ハビエル」
「おっちゃん……?」

 小麦肌の二人がハビエルさんの顔を不安げに見上げている。ワカ旦那さんは冷静に見つめていたけれど、どこか寂しそうに見えた。きっとワカ旦那さんもハビエルさんがハンターを辞めることを望んでいないのだろう。

「おっさんがハンターになったのは本当に漠然としていてね。みんなのようにちゃんとした理由は無かったよ。ただ、どこかであのシャガルマガラを狩ることができたら、とは思っていた」
「それじゃあ、ハビエル」
「【テオ】が、息子がモンスターハンターになりたいと言っていたことを思い出してね。それでおっさんはハンターになったんだ。仇をとったところでやめるつもりは無い、これからもやれるところまでやってみたいと思っているよ」
「良かった、これからも一緒にいれるんやね、ハビおっちゃん!」
「そうさ。エイドちゃんとも、トラ君とも、ワカ君とも」

 良かった、これからもよろしく、と荷台の雰囲気はとても和やかなものになった。エイドさんが話を盛り上げ、ワカ旦那さんがそれを聞いて笑い、トラフズクさんもハビエルさんと一緒に笑う。ボクもエールの隣で話を聞いて狩りを終えた満足感で胸がいっぱいになった。



 けれど、心のどこかで気にかかることがある。
 ワカ旦那さんはどうしてあんな無茶をしたのだろうか。
 歯止めが利かなくなってしまうかもしれないハビエルさんを守ろうとしたとはいえ、下手をすればワカ旦那さんが命を落としてしまうかもしれなかったのに。

 ボクは、ワカ旦那さんがハンターになった本当の理由を、未だに知らない。
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