狩人話譚

□ 銀白色の奇士[4] □

第33話 新雪の護衛者 前編

 リククワの長、ムロソに話があると呼び出された四人のハンターは先に部屋で待っていたリッシュから報せを聞かされ、全員がその内容に驚愕する。最初に口を開いたのはワカだ。

「【雪山】の護衛ハンターが……全滅!?」
「残念ながら。調査中に襲撃を受け、ハンター四名と書士隊二名が命を落としました」
「マジかよ……一体どいつがやりやがったんだ」
「生還した書士隊員の憶測によると、体格からラージャンの可能性が高いとのことです。体にもやがかかっていたとも報告されているので、狂竜化もしくは極限状態になっていたのではないかと」
「僕とリュカは目の前で極限化した金獅子を見た事がある。精鋭の狩人が全滅する程凶暴な個体なら、極限状態を遂げたんだろうね」

 所属ギルドが異なるとはいえ、同じ寒冷地で活動していた護衛ハンターの死を全員が偲ぶ。すると、ムロソが『話してよいか』と言葉を発した。

「襲撃から一週間が経過し、環境は安定したそうだが護衛ハンターを失ったことで今の雪山は調査が不可能になっておる。そこでドンドルマギルドはバルバレギルドを通じ、リククワに協力を要請したのじゃ。既に凍土調査隊とも連携をとっている状態だが、更に雪山にも向かうことになるかもしれぬ。多忙となるが、やれるか」
「そりゃあ仕事となりゃ、やるけどよ。ジジイ、開いちまった四人の護衛ハンターの穴をオレらが全部埋めるのか?」
「あちらも人員を補填したそうじゃ。だが、二名しか配属が決まっておらぬ。G級ハンターが全滅した話が瞬く間に広まったことで、申し出る者がいないらしくての」
「凍土は専属のクレイドたちにクインとエプサが手伝っているから、これからは雪山の方を優先にする感じかしら?」
「恐らくはそうなるであろうな」

 ナレイアーナの発言にムロソが髭に触れながらゆっくりと頷く。寒さに強いリククワのハンターならば、雪山の環境にも順応できるだろう。
 続いてリッシュがギルドから受け取った書類を見せる。ドンドルマギルドからの協力要請の内容が書かれた依頼書と地図だ。その場所と地名に気付いたカゲが細めていた目を開いた。

「まず雪山の新たな護衛ハンターと会うことを指示されています。麓にある【ポッケ村】を拠点にしているそうなので、飛行船で向かいましょう」
「顔合わせってことね。リッシュ、お願いするわ」
「はい。皆さんの準備ができしだい出発します」
「工房に加工を終えたお前さんたちの武器がある。ヌイから受け取りなさい。抗竜石も忘れずにな」
「おっ! 遂に完成したんだな。行こうぜ」

 極限化セルレギオスの捕獲報酬として受け取った極竜玉、そして抗竜石をムロソに預け武器の強化を依頼していたのが完了したと知りハンターたちは喜んで工房へ足を運ぶ。
 四人の来訪を待っていたヌイが、鍛冶業で鍛えられた逞しい腕で手始めにカゲのヘイズキャスターを持ち上げた。

「何も変わっていないように見えるだろうけど、攻撃力が上昇しているんだ」
「お師匠様、すごかったニャー。極竜玉を砕いて武器に擦り付けて、その上から抗竜石の不思議な力を被せてしまったニャー。ピカピカのキラキラだったニャー」
「成程。ムロソ様が言っていた“光と闇の共存”とは狂竜ウイルスとそれを鎮静させる抗竜石、相反する二つの力を同時に宿すことだったんだね」
「アタシには難しい理屈はわからないけど、そういうことらしいよ。抗竜石は狂竜ウイルスにだけ効くけど、お師匠様曰くこの【極限強化】は、どのモンスターにも効果を発揮する。使い慣れた武器の攻撃力が強まるのは、アンタらにとっちゃありがたいだろう?」
「勿論。僕の攻撃力不足を補ってくれるなんて、助かるよ」

 ヌイからヘイズキャスターを受け取ると、カゲの腕にひっ付いていたクレハが飛び上がり棍に止まる。何か違いを感じ取っているのだろうか。
 リュカの狼牙大剣、ナレイアーナのアスールバスターをそれぞれの持ち主に返すが、ワカのブルートフルートを手渡す前にヌイが説明をする。

「アンタのだけ違う効果が出たらしいんだ。持ち主に加護を与える防御の極限強化。きっとこの狩猟笛はワカを守りたい気持ちが強かったんだろうね」
「……そうなのか?」
「日々アンタたちの装備に触れてるアタシたちにはわかるさ。武器にだって、魂は宿っているよ」
「ありがとう」

 最後にワカがブルートフルートを受け取り、四人の武器が手元に戻る。準備の整った四人は、飛行船の待つ森のはずれへ足早に向かった。



 ドンドルマギルドの管轄地域、【フラヒヤ山脈】に属する雪山は凍土よりも遠く離れており、四人はしばらく空の旅を楽しんだ。相変わらずリュカは船内にこもって海越えを耐えていたようだが。
 ポッケ村の近くに飛行船を停められる場所が無く、やむなく少し離れた町の片隅に着陸した。今回は会うだけだからとリッシュを町に待機させて村を目指す。
 未踏の地のため地図を持ってきたワカを制したカゲが、三人を案内するべく先頭に立った。

「以前ドンドルマギルドに所属していて雪山にも何度か行った事があるから、道案内は任せてよ」
「サンキュー、助かるぜ」
「凍土はナナちゃん、雪山はカゲが詳しいんだな。頼もしいよ」
「ワカ、アンタは方向音痴なんだから絶対にはぐれちゃダメなんだからね?」

 数十分ほど歩いていくと景色が雪に覆われた森に変わり、やがて高くそびえる白い山々に抱かれたポッケ村が見えてきた。
 入口に二人の女性が辺りを見回しており、リュカたちに気が付くと一人が手を大きく振って四人を歓迎する。

「リククワのハンターだね、はじめまして。ようこそポッケ村へ。アタシは護衛ハンターの【メイ】、こっちが【パイ】っていうんだ。よろしくな」

 メイと名乗った女性は【ブランゴシリーズ】を身に着けていた。白を基調とした民族衣装のようなデザインはまるで踊り子で、大胆に露出する腹部は寒冷地で狩猟を行うためか黒のインナーで隠されている。肩に付かない程度に伸ばされた深緑の髪はウェーブがかっており、アメジストの瞳の輝きは鋭く意志の強さを物語っていた。
 背にはナレイアーナが愛用するアスールバスターの色違い、原種のガララアジャラの素材からつくられた【イェロバスター】が担がれている。ヘビィボウガンの使い手のようだ。
 四人と握手を交わすも、もう一人のハンターはその光景を遠巻きに見ているだけだ。メイが気付いて手をぐいぐいと引く。

「ほら、パイ! キミも握手するの」
「あ、あの……パイ、です。よろしくお願いします……」
「……この通りちょっと臆病だけど、腕はアタシが保証するよ」

 無理矢理リククワの面々と握手をさせるもパイの空色の瞳は地へ向けられている。おどおどした雰囲気はレンテを彷彿とさせた。郵便アイルーの彼女と重ねるのは失礼ではないかと思い直したが。
 パイは金色の髪を左右に三つ編みに結って後ろ側へ流し、左頬には緑色の花びらのようなペイントを施している。前髪を切りそろえた顔立ちは気弱そうな立ち振る舞いも相まって幼い印象を受けるが、彼女もまたG級ハンターの一人だと装備を見れば理解できる。
 白の鱗と鉱石と組み合わせた【ギアノスシリーズ】を身に着け、萎縮する彼女の背からはみ出ている武器は【虎鮫ザボアザギル亜種】からつくられるハンマー、【潰槌ハリセンボン】。二人とも高い麻痺性能を持つ武器を使用しているようだ。
 挨拶を済ませたところで、メイが今後の予定を話し始める。

「早速なんだけど、この間の襲撃現場の調査をしろってギルドから指令を出されていてね。二人ほど借りたいんだけど、いいかな。環境は安定しているから危険度の高いモンスターの乱入は無いと思っていい」
「了解。雪山の地形に慣れるためにも、僕を除いて二人選抜するべきだね。どうしようか、ワカ」

 カゲに判断を任されたワカは、辺りを見回してリュカとナレイアーナに向き合う。その行動にカゲの眉が少しだけ顰められた。

「今回はリュカとナナちゃんに任せるよ。俺は村の様子を見たいから」
「あ? 何だよ、それ。まあ、いいぜ。オレとイアーナで行く」
「お、お願いします……」
「だからぁパイ、しっかり話しなって!」

 おずおずと頭を下げるパイの背中をメイが強く叩いたので、パイは『ひゃい!』と驚いたのか気合を入れたのかわからない声をあげる。
 臆病な彼女が凶暴なモンスターと対峙したらどうなってしまうのかとリククワのハンターは不安になるが、腕は保証するとメイが言っているのだから狩猟に支障は無いのだろう。リュカとナレイアーナは二人に連れられ、村はずれの雪山へ向かう細道を歩いて行った。



 パイから地図を受け取り、全体を確認する。二人にとっては初めて足を踏み入れた場所なので、地図と実際の景色を見比べていた。
 山脈の一部ということもあり、氷海や凍土と異なり高低差が大きい。天空山がそのまま雪景色になったような厳しい狩猟場だと覚悟するべきかもしれない。
 今いるのがここ、とメイがエリア1に指を当てる。そこから北側にスライドさせて三つのエリアをぐるりと囲うように動かす。

「大型モンスターは大抵エリア6からエリア8を徘徊している。エリア3はフルフルやドドブランゴが寝床として使っているね。エリア5は細長い道が入り組んでいて、ギアノスやガウシカがうろついているよ」
「ここからだいぶ歩かないと、奥には着かないんだな」

 エリアの数字が大きくなるほどベースキャンプから遠ざかる。雪山の場合は高さも加わり、大型モンスターを探すのも一苦労だろう。この地形は慣れるまで時間がかかりそうだ。

「エリア6近辺が違う色で塗り潰されているのは、特に寒いエリアって意味?」
「は、はい。ホットドリンクを飲んでも、長居はあまり、できません……。でも、この辺りにモンスターがよく出現するので、行かざるを得ないでしょう……」

 そびえ立つ山を見上げながら、パイが緊張したような語り口調で答える。悲しげな表情を浮かべわずかに目も潤ませる彼女の異変に気付き、ナレイアーナはパイの肩に手を添えた。

「どうしたの、具合が悪いの?」
「い、いえ……平気です……」
「……パイ、無理しなくていいよ」
「それは、できません。わたしが、行かなくちゃ」

 首を横に振って拒否するパイの態度にリュカとナレイアーナは顔を見合わせる。何か事情があるようだが、それを問いただしていいものかと躊躇してしまった。メイは腕を組みパイに言い聞かせる。

「じゃあ、覚悟しなよ。アタシも決めているんだから」
「……うん」
「メイ、覚悟って?」
「ラージャンの襲撃で死んだハンターのうちの二人は、アタシの姉とパイの兄なんだ」

 湖の海面から寒風が吹いてくる。メイは悔しそうに握り拳をつくると地面に視線を落として続きを語った。

「アタシたちは幼なじみで、【香華コウカ】姉さんとパイの兄さんの【燕竜エンリュウ】は婚約していてさ、近いうちにポッケ村で契りの式を挙げるはずだったんだ。それなのに、ラージャンなんかにやられちまって……」
「ラーちゃんは極限化している可能性が高いらしいわ。いくらG級ハンターでも、書士隊を守りながらの撤退戦は厳しかったはずよ」
「それなら少しは諦めがつくけどさ……それでも死んでほしくなかったよ。訃報を知らされてポッケ村に来た時、村の人たちはアタシらの顔を見て泣いてくれたんだ。それぐらい姉さんたちはあの村が好きだったんだなって思ったら、いても立ってもいられなくてさ。二人が世話になったポッケ村の力になりたいって、決めたんだ。それで、すぐにバルバレギルドからドンドルマギルドに移籍した」
「…………。」

 力強く語るメイの隣でパイが静かに頷いた。各々の大事な家族のために活動拠点を変え、厳しい気候の雪山の護衛ハンターに転身する。二人の覚悟は相当なものだろう。

「いきなり湿っぽくして悪いね、そろそろ調査を始めようか。まずはエリア6を目指そう。そこの段差を登るとエリア4の洞窟に入れる。エリア5を経由すればすぐに着くよ」
「わかったわ、行きましょう」

 段差を登り洞窟の中を覗くリュカたちを見たメイは二人にホットドリンクを飲むよう話したが、寒さに強い体質であることを伝えられると目を丸くして驚いていた。
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