狩人話譚

□ 銀白色の奇士[4] □

第32話 アイルーたちの慰労祭 後編

 商店街を歩くモーナコとシフレだが、人が多く行き交うこの場所を小柄な体で進むのは難儀だ。ましてや今は大切な食材もあり、万が一ぶつかったり転んで傷めるわけにはいかない。そこへ名を呼ばれ、辺りを見回すと二人の女性ハンターがこちらへ歩み寄って来た。

「ナコ君……?」
「ニャ、グリフィスさん」
「大丈夫? 人混みに飲まれそうだったよ」
「アノエラさんも一緒だったんですニャ? ボクら、買い物をしに来たんですニャ」
「どこへ行くの? 私たちで良かったら一緒に行くわ……。大事そうに持ってるその荷物、落としたら困るものかしら。移動の間だけ持つわね」
「ありがとうございますニャ」

 グリフィスがモーナコの背負っていた包みを手に取ると、生肉の匂いを感じシアンの瞳を瞬かせる。何故彼らは食材を買い集めているのだろうか、と。
 歩きながら女性ハンター二人にも事情を説明し、目的地である海産物を扱っているお店へ。その店員はモガ村出身のため、ピッツァに適した具材も教えてもらえるかもしれないとモーナコは考えていた。
 褐色肌のその女性店員はとても親切で、モーナコの話を聞いてどの海の幸がマッチするのか真剣に品定めをしている。すると同じく食材を眺めていたアノエラが、とある食材を指した。

「“モガモ貝”はどうかな。それに、エビ……この“女帝エビ”とか」
「なるほど、いいですね! では、それらに“オンプウオ”も加えてはどうでしょうか」
「うんうん、とてもおいしく仕上がると思うよ」
「海産物にも詳しいなんて、ハンターは博識ですね」
「モガ村には世話になったからね」
「えっ?」

 恐らくこの店員はモガ村を離れて長いのだろう。目の前にいるゼクスシリーズを着た女性ハンターがモガ村の窮地を救った英雄とは知らないようだ。アノエラはそれでいいと思っているようだが。

「店員さん、おいくらですかニャ」
「あら、ハンターではなくオトモアイルーが支払うんですね」
「この子たちは私の知り合いのオトモアイルーで、偶然会ったからここまで来たの」
「そうだったんですね。はい、どうぞ」

 肉と魚介が揃い、あとはリククワに戻るだけだ。移動時間を含めても余裕で間に合うだろう。他のメンバーもしっかり具材を集められていればいいなと思いながら、グリフィスたちと別れを告げた二人は雪に閉ざされた拠点を目指した。

「……ねえ、アノエラ」
「おいしい釜焼きピッツァのお店、知ってるよ」
「本当? ナコ君の話を聞いていたら食べたくなっちゃって……」
「気持ちはわかるよ。早速行こうか」



「ただいまですニャ」
「おかえり、モーナコ、シフレ。材料は手に入ったかい?」
「これでどうかニャ?」
「七味ソーセージにワイルドベーコン、キングターキー……なかなかいいのを揃えたね。こっちはモーナコのだね、モガモ貝と女帝エビとオンプウオか。極上の素材だね、偉いよ」
「あと、キングターキーのお肉と骨を分けてもらいましたニャ。骨は他の料理に使ってほしいって、知り合いのハンターさんから」
「へえ、お店で切り分けてもらったのかと思ったらハンターがやったのかい。見事な包丁さばきだね」

 ドタドタと足音が響く。戻ってきたのはカゲとレンテだ。もちろん小袋を抱えているが、浮かない表情をしている。

「おかえりニャ。ユキモリ……どうしたのニャ?」
「面目無いニャ。どうしてもキノコ類があと一種類だけ見つけられなくて、やむなく拠点の具材を頼りにしたいニャ。モリザ殿、恥を承知でお願いニャ」
「そんなに萎縮しなくたっていいよ。アルが来て食材も豊富にあるんだから、多少使ったってちっとも問題ないさ」
「ちょっと待ったニャー!」

 大声で叫びながらやって来たのがアイとハリーヤ。全力疾走で戻ってきたのかゼエゼエと息を切らしている。ハリーヤにいたってはその場でひっくり返って『みずぅー』と情けない声をあげている。傍にいたレンテが水を取りに行った。

「ユキモリに大きな貸しをつくってやるニャ。カツモクするニャ! “深層シメジ”!!」
「ニャんと!?」
「おや、深層シメジなんて珍しい。【古代林】の奥深い場所でしか採れない食材じゃないか。アイ、まさかベルナ村まで行ったのかい?」
「ベルナ村近辺の地域の食材が好む集落ニャ。交渉には苦労したけど、この通りイアーナのための野菜もしっかりゲットしてきたニャ」

 アイとユキモリが袋をテーブルの上に置く。全てが新鮮で優れた食材であり、モリザは彼らの行動力の高さに感心した。水の入ったコップを即座に空にしたハリーヤが口を挟む。

「アイが持ってきたのは“レアオニオン”、“ヤングポテト”、そして“ベルナス”らしいニャー」
「僕のは“ユキヤマツタケ”、“ツチタケノコ”、アイに譲ってもらった深層シメジニャ」
「どれもおいしそうだね。それじゃ、下ごしらえを始めるよ」

 腕まくりをしてモリザもやる気を見せつける。モーナコたちが出かけている間にこねて寝かせていた生地を取り出し、キッチンの上で伸ばしていく。もちもちおいしそうニャー、とハリーヤが既に小腹をすかせてアイに背中を叩かれた。

「モリザ殿、シナト村近くの集落から“完熟シナトマト”をもらったニャ。これも使えるニャ?」
「いい食材を手にしたじゃないか、ユキモリ。生地の上にかけるソースに最適だよ。ヘタを取ったらそのボウルの中で皮ごと潰してちょうだい、味付けはアタシがやるから」
「了解ニャ」

 完熟シナトマトのソースづくりに専念したユキモリの隣ではアイが慣れた手つきで野菜を切っていく。シフレにもアイルー用の小さな包丁を渡し、目の前に七味ソーセージを置いた。

「これくらいの間隔で切れば一口サイズになるニャ。まっすぐよりナナメの方が見栄えがいいけど、無理しない方がいいニャ」
「いいえ、やってみるニャ。ワタシも旦那さんのために頑張りたいニャ」
「モリザさん、モガモ貝はどうやったら開けられるんですニャ?」
「ああ、これはちょっと特殊な道具を使うからアタシにやらせて。女帝エビに切れ目を入れるから、モーナコは殻を剥いてちょうだい。背中から左右に開く感じに剥けばきれいに取れるからね」

 キッチンはモリザと六人のアイルーでごった返しだ。全員が楽しみながらも一生懸命に具材を仕込み、四つに区切った場所に乗せていく。
 肉、野菜、魚介、キノコ。様々な食材が一つの生地の上に集まった光景はまるでリククワにそれぞれ異なる場所からやって来たハンターたちのようで、それを手がけた自分たちも同じ気持ちになった。

「それじゃ、釜に入れて焼くよ」
「どんな感じに仕上がるのか楽しみニャ、ワクワクするニャ」
「もうヘトヘトニャー、ねむたいニャー」
「ここで終わりじゃないよ。焼いてる間にやることはあるんだから」
「モリザさん、次は何をするんですニャ?」

 モリザは笑顔でキッチンに顔を向ける。アイルーたちも同じ方向を見て、皮や殻、細かい食材のゴミに気が付いて後片付けのことを指しているのだと察した。



 釜の中で焼かれるピッツァをまだかまだかと見ているアイルーたちがパンを焼いていた時のルシカと重なり微笑ましく思っていると、ユゥラがキッチンに現れた。

「皆が帰って来たわ。別々の場所に出ていたのに戻ってくるタイミングが一緒なんて、不思議ね」
「そういう子たちなのさ。ほら皆、釜はアタシに任せてテーブルの準備だよ」

 釜の前からアイルーたちが離れ、食器や片付けの合間につくっていたスープを並べていく。モリザが目配せをすると、気付いたシフレがハンターたちを呼びに向かった。
 セッティングが完了するのを見届け、モリザが背を伸ばす。隣には同じくアイルーたちの奮闘を眺めていたユゥラが立っていた。

「アタシの出番はここまでだね。あとは、この子たちの仕事だよ」
「お疲れさま、モリザ。ルシカたちから街の話を聞きましょう」
「そうだね。その後でアンタたちの食事の支度をするよ」
「大変じゃないかしら? 私も手伝うわ、ルシカは長旅で疲れてるでしょうし」
「嬉しい申し出だね。気合を入れて生地をつくったらちょっと量が多くてさ、あの子たちほど豪華にはならないけど、アンタたちのご飯もピッツァだからね」



 シフレに率いられて食堂へ来た四人は香ばしい匂いとアイルーたちの眩しい笑顔に迎えられた。全員驚きと感動が入り交じった表情をしており、その反応を見たオトモアイルーたちはしてやったりと心の中で小躍りする。

「すごい……これ、アンタたちがつくったの?」
「一部はモリザに手伝ってもらったけど、具材の調達やトッピングはアタシたちがやったニャ。今回は座る場所が決まってるから指示に従うニャ」

 それぞれのオトモアイルーが主の座る椅子を案内する。もちろんそれは、各ハンターの好みの食材の前に座ってもらうためだ。

「オレの好物ばかりじゃねぇか。シフレ、サンキュー」
「どうしたしましてニャ。ちょっと七味ソーセージの切り口が変なところもあるけど、許してほしいニャ」
「そんなの気にしねぇよ、一生懸命切ったんだろ?」
「雪森、ご苦労だったね。僕がツチタケノコ好きだった事、覚えてくれていたんだ。嬉しいな」
「当然ニャ。主の嗜好まで把握するのもオトモアイルーの務めニャ」

 リュカとカゲに誉められ、シフレとユキモリは顔を合わせて喜びを露わにする。

「ナコ、ありがとう。こんなに豪勢な料理でもてなしてくれるなんて」
「ワカ旦那さん……!」
「はは、お前がそんな顔するなよ」

 ワカの笑顔を見て感極まったのか、大きな瞳をうるうるとさせたモーナコの頭の上に手が優しく乗せられる。ガサガサとした指の感覚がとても嬉しかった。

「アンタがみんなを引率したんでしょう? お疲れさま」
「キッチンアイルーならこれくらい当然ニャ。イアーナたちがタラフク平らげてくれたらアタシたちのクエストは達成されるニャ、冷めないうちに食べてほしいニャ」
「そうね。いただきます!」

 ナレイアーナの号令に続き、三人もいただきますと言いピッツァに手を伸ばす。モリザの心配りにより切り分けられていたピッツァは簡単にハンターの手に乗り、ロイヤルチーズがおいしそうな匂いをたてながら糸を引いた。
 全員がピッツァを口にする瞬間をアイルーたちは固唾を飲んで見守る。味わいながら咀嚼していくうちに、ハンターに笑みがこぼれだす。

「うめぇ! やっぱり肉は最高だな」
「ねえねえリュカ、一切れもらっていいかな? 僕のもあげるから、交換しよう」
「ああ、いいぜ。お前のキノコのもうまそうだなって思ってたんだ」
「ピッツァはこうやってシェアできるのも魅力よね。はい、ワカ」
「えっ、俺は何も言って……」
「“目は口ほどにものを言う”って知ってるでしょ? アンタの女帝エビが乗ってるの、ちょうだいよ」
「敵わないな。どうぞ、ナナちゃん」

 自分の好物の乗ったピッツァも堪能しながら、他のトッピングのピッツァも味わう。そんな彼らの楽しそうな光景を見て、アイルーたちは顔を合わせて笑った。



 賑やかな食事が終わり、ハンターたちが目配せをして頷く。そして各々がオトモアイルーの前に屈み、隠し持っていた袋から何かを取り出した。

「お土産だぜ、シフレ。アイルーつったって女の好みはわからねぇし、イリスたちがいて助かったぜ。付けてやるから動くんじゃねぇぞ」
「きれいニャ、とっても」

 リュカがシフレのベストに付けたのは葉っぱの形をした銀色のブローチだ。明かりに照らされキラキラと輝くブローチにシフレは心を奪われた。

「アタシからもアイに。たまには可愛い服も着なさいよね」
「ニャッ、さすがイアーナニャ。アタシの好みにバッチリニャ」

 ナレイアーナはアイの目の前でアイルー用の服を広げて見せた。桜色の毛並みに映える、白と青で模様が縫われたベストだ。早速着てくるりと回ればナレイアーナも満足そうに笑う。

「ナコ、いつもありがとう。これはエドちゃんと一緒に選んで買ったんだ」
「あったかいですニャ、ワカ旦那さん」

 ワカはモーナコにムーファの毛皮でつくられたマントを被せた。温かいのは毛皮でできているだけではなく、ワカとエイドの気持ちも込められているからだろう。

「僕はこれだよ、雪森。前から欲しがっていたでしょ?」
「ニャニャ、【月迅竜】の! 旦那、嬉しいニャ」

 カゲが取り出したのはユキモリが身に着けているナルガネコメイルの色違いで、月迅竜と呼ばれるナルガクルガ希少種のカラーリングの胴着。本物の素材を使用していないレプリカだが、いつか着てみたいと呟いたことをカゲは覚えていたのだ。
 サプライズを仕掛けたオトモアイルーたちだったが、自分たちも仕掛けられるとは思わず、感激してハンターたちに飛びつく。食堂に響く賑やかな声を聞いて、モリザはハンターたちもサプライズを考えていることを黙っていて良かったと微笑みながら思った。



 ハンターとオトモアイルーの絆がより深まった、リククワの温かさとおいしさに満ち溢れる夜。遠い空の向こうで幾人のハンターも、ピッツァを堪能していることだろう。
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