狩人話譚

□ ボクとワカ旦那さん[2] □

ボクと双剣使いさん【1】

 ボクは今バルバレの売店でお買い物をしていた。ワカ旦那さんと再び一緒に狩りができるようになってから、簡単なお遣いはボクの役割だ。特にワカ旦那さんは最近留守にすることが多いので、前もって必要になりそうなものを教えてもらって安売りしている時を狙って買い物をしていた。

(【カラの実】に、【ハリの実】? 見慣れないものばかりですニャ)

 今までの狩りに見覚えの無いものがリストに並んでいた。ボクにはそれらを何にどう使うのかさっぱりわからないけれど、ワカ旦那さんが必要としているのなら準備をしなくてはいけない。きちんと値段分のお金も預かっているのでせっせと買い物を続けていると、賑わっていた商店街で突然聞き慣れた声が耳をピンと立てさせた。

「ホットドリンク、十本」
「えっ? ワカ旦那さん??」

 思わず返事をして辺りを見回すけど、ワカ旦那さんの姿はどこにも見えない。キョロキョロしたボクを見かねたのかどうしたんだい、と売店のおばちゃんに声をかけられたけど、もう一度辺りを確認して空耳だと思い直してお釣りを受け取った。
 ワカ旦那さんが今バルバレにいるはずが無いのだから、今のは空耳でないとおかしいのだ。荷物を風呂敷に包んで背負って、今日の買い物はおしまいだ。テントに戻る頃にはワカ旦那さんが戻ってくるだろうから、それまでに部屋の掃除もしておきたい。

(さっきの声、ワカ旦那さんそっくりでしたニャ。声がそっくりな人っているもんなんですニャ)

 発言の内容を思い出すとその人はホットドリンクを買ったようだったけれど、ワカ旦那さんは寒さに強い体質なのでそんなにホットドリンクを買う必要が無い。だから間違いなく別のハンターだったのだろう。



「ただいまですニャー」

 一応声を出してテントに入るも、返事が無いのでまだワカ旦那さんは戻ってきていないようだった。風呂敷を床に下ろし、買った物の仕分けを始める。調合用の回復薬や小タル、あとは何に使うのかわからない実。
 ボックスに入れたり棚に入れたりせわしなく体を動かしていると気配を感じ取る。同時にそれが誰のものか瞬時に理解して、無いはずの尻尾がゆらりと揺れる気分になった。

「ナコ、ただいま」
「おかえりなさいですニャ、ワカだん、な……さん?」
「うん。俺だよ」

 思わず尋ねてしまったのは、ワカ旦那さんの服装がいつもと全く違っていたからだ。ハチミツ色の鎧ではなく、真っ白な鎧、というには腕やいつもは見えない首まわりが丸出しで、あまり防御力を重視しているようには思えない。さらに頭にモンスターを象ったような兜を被っていて、口元にあたるこめかみの辺りには赤い牙が付いている。
 顔の下半分は露出しているものの目は隠れていてよく見えないので、ワカ旦那さんなのか戸惑ってしまったのだ。初めて見た装備に興味津々にあちこちを観察していると、『なんだ、そんなに珍しいか?』と言いながら兜を外してくれた。そこでようやくいつものハチミツ色の目がやっと確認できて安心した。

「これは【氷牙竜ベリオロス】というモンスターの装備なんだ。こっちには生息していないけど、ガララアジャラの素材と交換してくれる商人がいたからさ、ガンナー用装備として一式つくってもらったんだ。いつまでも支給用のブレイブ装備を借りてばかりじゃ申し訳ないしな」

 氷、と名前がつくということは氷海のような寒いところにいるモンスターなのだろうか。原生林でよく暴れていたガララアジャラをよく狩っていたので、素材に余裕があったから全ての防具を揃えることができたみたいだ。更に背に担いでいた武器も鎧に似た質感のものだったけれど、それは狩猟笛ではなかった。狩猟笛に比べれば小さく見える、弓のような武器。

「これか? こいつは【ブリザードカノン】。これが最近練習している【ライトボウガン】だ」

 ボウガン、というのは弓のように手で引くのではなく引き金を引いて弾を放つ銃……だっただろうか。ボウガンには軽さを生かしフットワークで攻めたり毒や麻痺などにする弾を撃ってサポートを行うのが得意な【ライトボウガン】と、動きは遅いけど小さいながらも盾が付いていて、何より一発の威力がとても高い【ヘビィボウガン】の二種類があるらしい。中間のボウガンもあるらしいけど基本はこの二種類が使われている、と武器の知識書で読んだ覚えがある。そして遠距離武器を扱う場合の防具は、モンスターのブレスに対応するために物理防御より各属性耐性を強めたものが多い、とも。

「ハンターになる時、本当はこれを使いたかったんだけどライトボウガンを使える人が周りにいなくてさ。それでフェイ兄に狩猟笛を教わったんだ。ミサ姉ちゃんのキャラバンはハンターが多いから、ライトボウガンを扱える人がいて助かったよ」

 ワカ旦那さんがライトボウガン志願者だったというのは初耳だ。しかも、教えてくれたのがフェイさんだったなんて。もしお兄さん、お姉さんの中にライトボウガンの使い手がいたら今のワカ旦那さんはボウガン使いだったのかもしれない。ちょっと想像が付かないけれど。これからはこういうワカ旦那さんの姿も頻繁になるのだろうか。

「ワカ旦那さんはこれからライトボウガンを使っていくんですニャ?」
「いいや、あくまでメインは笛でいくよ。だけど仲間の武器編成や、狩る相手によっては変えようと思う」

 あんまり他の武器にも手を出すと感覚がわからなくなるからせいぜい2種類が限界だろうけどな、と言いながら立てかけている狩猟笛【王牙琴】の隣に新しい相棒、ブリザードカノンを置いた。緑と白の武器が並ぶのを眺めていると、テントの外から声が聞こえてきた。

「ワカ君、いるかい?」
「その声はおっちゃんか? 入っていいぜ」
「ありがとう、失礼するよ」

 ワカ旦那さんが返事をすると、松葉色の髪を揺らして大きな体が中に入ってきた。スラッシュアックスの使い手で、ワカ旦那さんと一緒に狩りに行くこともあるハンター仲間の【ハビエル】さん。
 ワカ旦那さんが留守の間に一緒に狩りに出たことがあるのでボクにとってはさほど間は空いていないけれど、最近狩りより新しい武器の練習を中心においているワカ旦那さんからすればハビエルさんの訪問は久しぶりになる。入って早々にハビエルさんもワカ旦那さんの新しい装備に反応を示した。

「新しい防具だね。それはひょっとして、氷牙竜ベリオロスの?」
「あっ、知ってるんだ? ベリオロスの【ガンナータイプ】の防具だよ」
「知ってた、というか別の子が身につけていてね。入っておいで」

 ハビエルさんがテントの外に向かって声をかける。誰かを紹介したかったのだろうか。だけどハビエルさんの声に応じないのか、誰も入ってこない。何だろうと顔を見合わせるボクとワカ旦那さんにちょっと待ってて、とハビエルさんは一度外に出て、少し時間をおいて再び入ってきた。
 後ろについて来たのはワカ旦那さんが着ているベリオロスの鎧をもっとがっしりさせたもの、つまりこれがガンナータイプと対をなす【剣士タイプ】と呼ばれる装備を着ていた人。だけどそれよりもっと驚くことがあった。

「ワ、ワカ旦那さん……!?」
「いや俺はここにいるよ」

 隣に本人がいるにも関わらず思わずそう言ってしまった。だって、あまりにもワカ旦那さんに似ている男の人だったのだ。
 顔つきはワカ旦那さんより少し幼く、目鼻立ちがくっきりしてるけれど似ている。肌の色はエイドさんみたいな小麦色だ。兜を外して見せた髪は雪のように真っ白で、少しくせっ毛なのかふわふわしている。瞳は氷結晶みたいな綺麗な青色で、まるで氷海にある色を詰め込んだみたいだった。
 そんな男の人を見てワカ旦那さんも驚いているし、あちら側もきょとんとしている。似た顔つきの二人にボクも唖然としていたけれど、ワカ旦那さんが我に返ってハビエルさんに尋ねる。

「えっと、で……俺にそっくりなハンターがいるって紹介するために来たのか?」
「いいや。実は、この子はおっさんがバルバレに来てから同じテントで暮らしていてね。そろそろワカ君達に紹介しようかと思って」
「それじゃだいぶ前からいたってことか。なんだ、もっと早くに紹介してくれても良かったのに」
「おっさんもそうしたかったんだけどね。この子と心を通わせるのに時間がかかってしまって。それに、ワカ君の記憶が不安定な時期もあったし」
「うっ、だから、あの時は本当にごめんって……。」

 ワカ旦那さんにとって過去の記憶と今の記憶がこんがらがっていた時期は非常に心苦しいものらしい。ボクもワカ旦那さんがこのテントからいなくなってしまったことは本当に寂しかった。最終的には全部の記憶を取り戻して戻ってきてくれたのだから今となっては乗り越えた試練のように思っているけれど。
 それにしても、さっきから紹介されたこのワカ旦那さんに似た人が何も言わないのが気になる。よくよく見れば別人なのはわかるけど、ふと見るだけなら本当にそっくりだ。不思議だなあ、と思いながら見ているとあまりにも見すぎたのか向こうからも視線を送られる。そしてボクの全身を見ると、ぽつりと声を出した。

「……【キビタキ】」
「ニャ?」

 初めて喋った、と思ったらよくわからない言葉。そしてその声までワカ旦那さんの声を少し高くしたぐらいなのだから驚いた。ハビエルさんはボクを見てなるほどね、と穏やかに笑う。

「君の毛並みから似た鳥の名前を言ったんだ。名前を付けたかったんじゃないかな。トラ君、この子はワカ君のオトモアイルーだよ。きみもみんなに自己紹介しようか」
「……【トラフズク】」
「“虎斑木菟トラフズク”、鳥の名前か。俺は【ワカ】、こいつは俺のオトモアイルーの【モーナコ】」
「よろしくですニャ、トラフズクさん」
「……よろしく」

 ワカ旦那さんに似ているものの、口数は控えめであまり表情を変えない人だな、と思う。ワカ旦那さんと並べばトラフズクさんはちょっと小柄で、こうして見るとまるで兄弟みたいだ。ハビエルさんと並ぶと今度は親子のように見える。
 とりあえずお互いに自己紹介をして馴染んだところを見計らってハビエルさんが軽く咳払いをすると、二人が同じタイミングでハビエルさんを見やった。

「本当はエイドちゃんにも紹介したかったんだけど、テントにいなくて。どうやら既に依頼を受けて出発していたみたいだね」
「エドちゃんなら天空山に行ったよ、リオレウスの討伐の依頼を受けたはずだ」
「そうか。トラ君は操虫棍も扱うから、エイドちゃんと気が合うかもと思ったんだけどね」
「できればその間には入りたくないな……。」

 猟虫といえどやはり虫は苦手なワカ旦那さんが苦笑いを浮かべている隣で、トラフズクさんはワカ旦那さんをじっと見ている。やはりトラフズクさんも自分に似ている人がいて気になっているのだろうか。視線に気づいたワカ旦那さんが顔を向けると、ハチミツ色と氷色の目が交差した。

「……目、金」
「その、あまり見ないでほしいんだ」

 トラフズクさんはワカ旦那さんのハチミツ色の目を覗き込んでいたようで、遠慮がちにワカ旦那さんが目を伏せる。どうもこれは記憶を全部取り戻してからのようだけど、ワカ旦那さんは目をじっと見られるのを極端に嫌がる。
 前髪を伸ばしてまで隠していたハチミツ色の目は、ボクから見れば綺麗だと思うのだけれどワカ旦那さんにとっては隠したくなるほど嫌なことがあったのかもしれない。
 ワカ旦那さんに言われたことが理解できずに頭に疑問符を浮かべている様子のトラフズクさんに、『ワカ旦那さんはちょっと恥ずかしがり屋なんですニャ』とフォローをしておいた。

「エイドちゃんに紹介をするのはまたの機会にするとして、ワカ君は今日の予定は?」
「ああ、樹海の調査依頼を受けていたんだ。良かったら来てくれるか? 人数が多い方が調査も捗るし」
「そうだね、いいかい? トラ君」

 ハビエルさんの問いにトラフズクさんが頷き、今回の探索のメンバーが決まった。複数で狩猟に臨む場合は四人までと決まっているそうで、オトモアイルーもしっかりと一人分に数えられている。
 ハンターが三人になればオトモアイルーの出番は無いかと思われていたけど、実績を積んだハンターとオトモアイルーなら四人目の枠に入れてもらえるようで、ボクはそれに甘んじて四人目のハンターとして一緒に狩りに連れて行ってもらったことがある。どうやら今回もそうなるようだ。

「それじゃ準備してくるから、ワカ君も支度が整ったらこっちのテントにおいで」
「わかった。すぐ行くよ」

 ライトボウガンの練習も兼ねるみたいで、ワカ旦那さんは装備を変えずベリオロスの鎧のままポーチに必要な道具をしまい始めた。ボクもしっかりと防具を付けなくては、とボックスを開けて装備を取り出す。ワカ旦那さんが訓練でいなかった間、何もしなかったわけじゃない。

「それがこの間頼んでいた新しい武器と防具か? いいじゃないか」

 ワカ旦那さんもそれに気づいて嬉しそうに笑ってくれた。ティガレックスの兜と鎧に、ガララアジャラの武器。ワカ旦那さんとおそろいの防具を身につけたかったけれど武器の分で素材を使いきってしまい、結果余裕がある素材でつくったのがティガレックスの防具だった。
 黄色っぽい鎧なのでこれはこれでワカ旦那さんのガララアジャラの鎧と似ているかなと思う。武器も『プーンギ』という笛の形で嬉しい。今回のワカ旦那さんはライトボウガンを背負っているのがちょっとすれ違ってるみたいだけれど。

「さ、行こうか」

 兜を被り、ブリザードカノンを背負ってテントを出るワカ旦那さんの後を追った。いつも街中なら兜を外しているのに、目を見られないように被っているのかな、とふと思いつつ。
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