狩人話譚

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銀白色の奇士[3]

第23話 霧隠れの里 前編

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 リククワ近辺の森を二人のハンターが周囲を見回しながら歩いている。ギルドナイトの称号を持つG級ハンター、キョウとミツキだ。二人はカゲの指示により森の調査を行っていた。
 数日前にワカが遭遇した謎の男。非狩猟地域で野生のケルビの頭部をハンマーで叩き潰し、更にワカにも襲いかかった奇行はギルドへ即座に伝えられ、その凶暴性から被害が広がる前に捕らえなければならないとの判断が下された。
 あれから男の姿は見えない。カゲはここを離れただろうと考えていたが、何か手がかりを残した可能性もあることから探索を命じたのだった。

「特に気になるものは見当たらないね。もう少し探そうか?」
「…………。」

 ミツキの問いに対し、キョウはふいを顔をそらす。無視したのではなく、まだ探したいという意思表示だ。付き合いが数年に及ぶミツキにとって、キョウの無言の行動が何を意味するのか手に取るようにわかるのだ。
 リククワは氷海に近い大陸の最北部に位置し、しばらく南下すると現在のバルバレギルドのある中心部にたどり着く。森が広がるこの地域は気候が厳しく、人が住むには適していない。氷海の調査のための拠点としてつくられたリククワが唯一の例外だ。それがこの地域を知る者たちにとっての見解だった。
 だが、それは間違いだったと知る。

「…………。」
「キョウ、どうしたの?」

 茂みに視線を注ぐキョウが固まったまま動かない。普段より目つきが鋭いのは目を凝らしているからのようだ。やがて茂みに近づくとガサガサと雑な音を出しながら草をかきわける。

「こ、子ども!?」

 ミツキが驚愕の声をあげた。草むらに隠れるように、子どもが倒れていた。



 ユゥラの手当てを受けた子どもはベッドで身を横たえて静かに眠っている。幸いにも軽い擦り傷しか負っておらず、体がやや衰弱しているだけだ。休めばじきに目が覚めるだろう。
 子どもの柔らかい純白の髪を撫でながら、ユゥラはベッドを挟んだ向かいに立つカゲと目を合わせた。

「この子はどこから来たのかしら? ここに一年以上いるけど、近くに村があるなんて聞いたことが無いわ」
「僕らもこの拠点のことしか聞かされていないから、周辺の地理は詳しくないんだ。美月の話だと、この男児が倒れていた近くに上から滑り降りてきたような急斜面があったそうだから、どこかに居住地があるんだと思う」
「そう……。あのまま誰にも見つけてもらえなかったら凍え死んでしまうところだったわ。この子を見つけてくれた二人に感謝しないと」
「そうだね、後で伝えておくよ」

 その後、話を聞いたワカとエイドが様子を見にユゥラの部屋を訪れたが少年は一向に目を覚まさず、その日は静かに夜を迎えた。



 翌朝、カゲがキョウとミツキを連れてユゥラの部屋を訪れたが不在だったため、今の時間帯ならと食堂へ向かうと賑やかな声が聞こえてきた。
 その中に聞き慣れない声が混じっているのを確認したカゲは、あの子どもが目を覚ましたのだと安堵する。そして中へ入れば、案の定ユゥラをはじめとするリククワの者たちが食事を平らげた子ども――少年だったようだ――を囲うように立っていた。

「やあ、おはよう皆」
「おはよう、カゲ。キョウとミツキも、昨日はお疲れさま」
「ありがとう」
「…………。」

 ユゥラが労いの言葉をかけながら身を退いたので、そこへカゲが入る。椅子に腰掛けている少年を見やるが、特に警戒することも無く不思議そうにカゲを見つめ返していた。輝竜石の別名を持つドラグライト鉱石のような、鮮やかな緑色の瞳だ。

「名前、言えるかな?」
「【レタルトム】」
「歳は?」
「ごさい」
「どこから来たの?」
「むら」
「村の名前は?」
「……わかんない」

 少年こと【レタルトム】は自分の住んでいる村の名前を知らないようだ。せめて名前がわかればギルドに確認して細かな位置を知ることができるのだが。

「僕らは一度ギルドへ戻って、周辺の集落について調べてみるよ。数日間この男児を保護してほしいけど、いいかな?」
「食料はたっぷりあるから問題無いよ」
「ベッドはディーンのを使わせるわ。誰かが傍にいる方が安心できるでしょうし、客人用の部屋はエイドが使っているから。レタルトム、私と一緒の部屋でいいかしら」
「うん」

 モリザとユゥラに確認をとったカゲたちはすぐにリククワを発とうと思ったようだが、モリザが『待ちなよ』と三人を止めた。そしてキョウの前にレタルトムを連れ出す。
 自身の太股くらいの背丈しかないレタルトムを見下ろすキョウだが、少年は彼の放つ威圧感など全く感じていないようだ。

「レタルトム、この人がアンタを見つけて助けてくれたんだよ。お礼を言ってあげな」
「うん! ありがとう、“おじさん”」

 レタルトムがとびきりの笑顔でお礼を述べたが、キョウの表情に変化はまったく見られない。だが付き合いの長いカゲとミツキには、僅かながらキョウが動揺したことに気が付いた。
 殺意をみなぎらせるモンスターと対峙しても怯むことの無いG級ハンター、しかもギルドナイトでもある男が『おじさん』と呼ばれて衝撃を受けたという事実にカゲは堪えきれず吹き出した。

「ぷっ、くく……おじさんだって! 二十七でおじさん呼ばわりなんて可哀想にねえ、恭」
「…………。」
「えっ? 残念でした、僕は十六だから“おにいさん”だもんね」

 キョウがカゲを睨んだので、カゲも薄めていた目を開いて心を読みとる。想像通り抗議の思いをため込んだようで、カゲは手をひらひらと振って自分は問題無いとからかった。以前から思っていたのか、モリザも追撃を放つ。

「アンタ、仏頂面だからねぇ。老けるように見られたんじゃないかい?」
「…………。」
「さてと。ギルドまでの道のりは長いから、すぐに出発しないと。戻るまでこの子の面倒をお願いね。行くよ、美月、恭おじさ……痛いっ!」

 供を連れ発とうとしたが余計な一言を足したためにキョウに肩を強く叩かれたカゲを見てモリザが笑う。ワカとエイドは三人に道中気を付けて、と見送った。



 ユゥラは棚から数冊の本を取り出した。モンスターの生態について記載された書だ。書士隊により集められた情報がぎっしりと詰められたこの本は、大型モンスターを実際に目にする機会が滅多に無い子どもの強い関心を引く。
 ワカとエイドもレタルトムと話をしたいと訪れ、部屋は一気に賑やかになった。

「レタルトムはどんなモンスターが好き? 飛竜種? 牙獣種? それとも古龍かしら」
「もんすたー、ってなに?」
「えっ?」

 きょとんと首を傾げて尋ねたレタルトムの質問に三人は怪訝な表情を浮かべてしまった。いくら幼い故に村の外に出たことが無いとはいえ、モンスターの存在を知らないとは信じられないからだ。
 ワカは傍にあった本に手を伸ばし、ケルビやガウシカなど草食種のモンスターが載っているページを開いた。スケッチされたモンスターの絵を見ても、レタルトムは興味津々な反応を見せる。

「今回以外に村の外に出たことはあるのか?」
「ないよ。むらからでちゃダメだって、とうさんがいってた」
「その理由は」
「そとにはなんにもないって。なんにもなくて、アンゼンだからずっとここにいるのがいいんだって」
「ワカにいちゃん、どういうことなんかな」
「……村の外に脅威が、モンスターが存在しないってことだろうか」

 言葉足らずな子どものメッセージの意図を読みとるのは難しい。どうにか真意を理解しようとワカは頭をフル回転させ、そう推測したようだ。
 リククワの近辺で生息しているのはケルビなどの脅威と見なされることの無い小型モンスターのみ。厳しい気候のこの地は外界と交流を持つよりも自給自足を確立させて慎ましやかに暮らす方が安泰なのかもしれない。ユゥラはそう考えた。
 レタルトムは他のページもぺらぺらとめくっては目を輝かせている。本当にモンスターという存在を知らないようだ。この気候では他の野生動物を見かける機会も無いだろう。

「とうさんがいってた。むかしむかし、むらのちかくにこわいいきものがたくさんいたけど、”はんたー”ってひとがタイジしたんだって」
「ハンター……!?」
「はんたーは、しろくてキラキラしたたからものをまもっていて、こわいいきものをタイジしたから、むらのまわりにはなんにもなくなったって。はんたーのおかげでこわいいきものがいなくなったことをはんたーにカンシャしなくちゃいけないって、とうさんにおそわったんだ」
「……どういう意味かしら」

 饒舌に語ったレタルトムの村の話はモンスターを討伐したハンターといった内容で、まるで村に伝わるおとぎ話。レタルトムはハンターが狩人ではなく人の名前と受け取っているようだが。
 何か思い当たったのか、ワカは『レタル』と名を縮めて少年の名を呼ぶ。金の眼と翡翠の眼が交錯した。

「その“はんたー”はどこへ行ったのかは聞かされていないのか?」
「ゆきやまの、とおいとおいむこう。たからものはおそらにきえた」
「……そうか」
「ワカにいちゃん、何かわかったん?」
「そのハンターは……【密猟者】だ」
「!!」

 エイドの血の気が一気に引いた。ワカも表情を強ばらせており、ユゥラは二人の反応に驚く。何か良からぬことを知ってしまったかのように思えた。

「怖い生き物とはモンスターのことだろうな。そしてハンターがモンスターを根こそぎ討伐した結果……この一帯からモンスターが姿を消したんだ。やがて木々が生い茂るようになり、一部の小型モンスターが戻ってきた。この辺が狩猟指定区域だった話は聞いたことが無い。白く輝く宝物が何を指すのかはわからないけど、何らかの目的があってハンターはこの地域のモンスターを不当に絶滅させたんだ。その後、ギルドから追放されて雪山の向こうへ逃げ延びた」
「レタルトムの村の周りからモンスターがいなくなって、安定した環境になった代わりにモンスターの存在を知らないまま時が流れてしまったってこと?」
「恐らくは。自給自足で生活できるのなら村から離れる必要も無いし、かえってこの地域から出る方が危険だと伝えられているのかも」

 ユゥラがワカの推測の続きを述べ、ワカは頷いてそれを肯定する。レタルトムに二人が話している内容を理解することはできなかったが、『はんたー』について話していたのでワカの服の裾をつかむとすがるように見上げた。

「はんたーのこと、しってるの?」
「昔の人だから知らないさ。レタルも知る必要は無い。……知らない方がいい」
「ワカにいちゃん……」
「なあレタル、どのモンスターに興味があるんだ? 俺たちができる限り話をしてあげよう」

 話を切り上げるようにワカが他の書物にも手を出すが、古ぼけた書類の山を見つけて動きが止まる。

「ユゥラさん、これは?」
「【古文書】」よ。あの人が、ディーンが書士隊の先輩から継いで解読していたの。今は私が引き継いでいるわ」

 古文書は古代人が記した暗号のような古い書体で書かれているために、解読は書士隊が何十年、延べ何十人にもわたって続けられている。全部で十一冊あるうちの一冊がリククワにあることにワカは驚いた。
 過去に解読されたものでは強大な力を持つモンスターの出現を予言した内容が記されていたことがあり、被害が発生する前に食い止めるべく、書士隊はそれらの解読も行っているという。
 本来ディーンが死亡した時点でギルドへ返還されるはずだったが、ユゥラがそれを拒んだ。亡き夫の遺志を継ぎたいとムロソに告げ、ムロソがギルドに懇願の手紙を送ったことでユゥラは古文書の解読を行う使命を受け継いだ。
 イリスが氷海の誕生の謎を探っているように、ユゥラもこの古文書の解読を目標としていた。

「先代たちの努力の結果、寒冷地帯にまつわる伝承だと判明しているんだけど、まだ細かな内容にはたどり着いていないの」
「すごい……書士隊ってそんな難しそうなお仕事もするんやね」
「ハンターだって立派よ。強大な力を持つモンスターに立ち向かうんですもの。だから、私たちも頑張ってハンターに役立つ情報を伝えられるよう戦っているわ」
「ねえ、それなに?」
「これはお仕事の書類よ。レタルトムが見ていいのはこっち」

 卓上に乗せられていた古文書と資料に手を伸ばしかけていたレタルトムを抱き上げ、ユゥラの太股の上へおろす。レタルトムの目の前にモンスターの書を開けばわあ、と歓喜の声をあげた。
 こうして見るとまるで親子のようだ、とワカは微笑ましく思ったが、すぐさまその考えを撤回した。ユゥラがどんなに強く願っても、叶わない希望なのだから。
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