狩人話譚

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銀白色の奇士[3]

第22話 一年越しの永別 後編

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 深呼吸をして呼吸を整え、むくりと起きあがる。地面にはたくさんの涙がしみついていた。目元をこすり、酸素不足の頭を軽く振るう。

「お別れ、できましたニャ?」
「……モーナコ」

 地面を踏みしめる音がしたので顔を向けるとモーナコが立っていた。問いに対し頷いてみせると、良かったですニャとモーナコもまた頷く。

「シフレには感謝していますニャ。ワカ旦那さんのピンチを救ってくれたのはシフレだって、イアーナさんが教えてくれましたニャ」
「あの時は無我夢中だったニャ。ワカさんが前の旦那さんと重なって見えて、とにかく助けなきゃって……」
「ハンターのために危険を冒してでもセルレギオスに立ち向かったのはすごいですニャ。シフレは立派なオトモイルーですニャ」

 心から称えてくれているモーナコの純粋な眼差しに、シフレは遠慮がちに首を横に振る。立派なオトモアイルーならば主を守れたはずなのに、それができなかったのだから。

「ワタシは前の旦那さんを助けられなかったニャ。もしモーナコだったら回復笛で傷を癒せたのに、ワタシは罠を仕掛けることしかできなくて」
「シフレ……」
「暗いことを言ってごめんなさいニャ。ワタシはもう大丈夫ニャ。前の旦那さんとお別れできたし、これからはリュカさんのオトモアイルーとして頑張るニャ」

 そっと近づいたモーナコがシフレを抱きしめる。ワカがエイドを励ますように、モーナコもシフレを励ましてあげたいと思ったからだ。じっとうずくまっていたせいか、シフレの体は冷たい。モーナコの体温が伝わり、シフレが幸せそうに笑う。

「モーナコ、あったかいニャ」
「…………。」

 モーナコは、ワカの義兄が教え子の捜索依頼をリククワに出した日のことを思い出していた。リュカたちは一年前に捜索依頼を受けたことがあると話していた。捜索対象だったハンターは事切れていたが討伐対象だったモンスターも息絶えていたことや、ハンターが連れていたオトモアイルーは行方不明になっていたことも。

(あの時行方不明になったオトモアイルーは、このシフレだったんですニャ。リュカさんたちはそれを知っていてシフレを引き入れたに違いないですニャ)

 捜索依頼を受けたのであれば、対象になる人物の外見を確認したはずだ。オトモアイルーも同様で、垂れた耳と丸い尻尾という外見の特徴をリククワのハンターは忘れていなかった。彼らにとっても辛い記憶なのだから。

(リュカさんがシフレにルームサービスをお願いしたのも、前の旦那さんのような思いをさせたくなかったからですニャ)

 依頼に参加できる人数の都合もあるが、一番の理由はシフレの目の前で倒れる姿を見せたくないからだろうとモーナコは考える。リュカは口が悪く粗暴な行動が目立つが、家族思いの優しい心を持っている男なのだ。

「シフレ、せっかくだから少し採取をしていきましょうニャ。エールたちがエリア6でいにしえの龍骨を探していますニャ」
「わかったニャ、……?」

 シフレが返事をした瞬間、モンスターの咆哮がエリア6側から聞こえてきた。こんなところまで声が聞こえるのは大型モンスターだけだ。急いで二人はエリア6へ向かった。



「遅いニャ、モーナコ! こいつが採取の邪魔をしてきたニャ!」

 エールが巨ネコ杖を構えて叫ぶ。隣ではユキモリがナルガSネコ手裏剣を投げつけているが巨大な尻尾に弾き返されている。
 現れたのはガララアジャラ亜種。モーナコはすぐにとぐろを巻いているガララアジャラ亜種の右後ろ足に注目する。三本ある指のうち、外側の指が欠損しているのを確認すると、顔を上げた。視線が交錯したガララアジャラ亜種の目つきが嬉しそうに細められた気がする。

「【イララ】ですニャ。厄介な相手ですニャ」
「イララ? あいつはガララアジャラニャ」
「イララはワカ旦那さんが付けた名前ですニャ。ハンターにちょっかいを出しては地面に潜って逃げる変わったモンスターですニャ」
「成る程、納得ニャ。道理で僕の攻撃をいなしてばかりだと思ったニャ」


 まるで玉を投げ合う遊びをするように、ユキモリの投げる手裏剣を堅い尻尾で弾き返すガララアジャラ亜種は、モーナコとシフレという新たな遊び相手が増えたことに喜んでいるのか背の撥水甲をジャラジャラと鳴らしている。だが開いた口から覗く牙は鋭く、いつでも喰らう準備はできているようだ。
 【イララ】と名付けられたこのガララアジャラ亜種は、以前リュカたちが依頼を受けて討伐しようとした個体だ。あの時も変則的な攻撃でリククワのハンターを翻弄し、最終的に辺境へ逃げられて撃退扱いとなった。
 あれから度々氷海に現れては気ままに過ごしているようで、リュカたちの顔を記憶したのか時折調査の最中に乱入してはひとしきり戯れ、最終的に嘲笑うように鳴いて姿を消す。賢さに優れる種とはいえ、ここまで人間と接触することを楽しむ個体がいただろうかと書士隊は深い関心を持っていた。

「おちょくってるようなあの笑顔、ぶん殴りたいニャ」
「最大金冠級の大きさだから、届きそうにありませんニャ。討伐しようとすると逃げてしまうし、イララの気が済むまで遊び相手をしなくちゃいけませんニャ。逃げようとしても追いかけて来ますニャ」
「追いかけてくるなんて、しつこい男は女に嫌われるニャ!」
「エール、イララは雌らしいですニャ」
「女だって同じことニャ!」
「モーナコ殿とエール殿、まるで漫才のようニャ。阿吽の呼吸の如く息がぴったりニャ」
「旦那さん同士も仲が良いし、一緒に狩りに出た回数も多いらしいニャ」

 モーナコとエールのやりとりにユキモリは感慨深そうに頷いている。今頃拠点では主たちも仲良く寄り添っているのだろうかとシフレも考えており、とてもではないが大型モンスターと対峙している空気ではなかった。

「“ベルナの英雄”の力をとくと見るニャー!」

 エールがイララの長い体を足場にして頭部めがけ飛び上がる。しかしイララは姿勢を低くしてエールの攻撃を避けると直後に頭を持ち上げてエールの小さな体を自身の背に乗せる。坂から転げ落ちるように滑っていくエールは抵抗するべく武器を振るうが、撥水甲の厚い殻に阻まれた。

「ウニャーッ!?」

 滑り台の終点は氷の床。バランスを崩したまま放り出されたエールに着地の態勢を整える余裕は無く、地べたに転がる無様な姿を見せてしまうのかと目をぎゅっと瞑ったが、何かに受け止められて地面との衝突を免れた。

「……ニャ?」
「おや、エールじゃないか」
「ニャッ!? ハ、ハ……【ハビエル】!!」

 エールの体を受け止めていたのはハンターの大きな手だった。両手で抱えられたエールがハンターの顔を見るなり鍵尻尾を一気に膨らませる。
 年は四十歳ほどの男性。若草色の髪を後頭部で結い、頬には赤い爪のフェイスペイントを施している。淡い水色と棘部分の朱色の対比が鮮やかな【ラギアシリーズ】に身を包む体躯はリュカ以上に縦にも横にもがっちりとしているがその表情はとても穏やかで、エールを抱いたままグリーンの瞳が周囲の確認を行った。

「モーナコもいるね。他のアイルーも仲間かい?」
「ハビエルさん、お久しぶりですニャ」
「おれもいる」

 ハビエルと呼ばれたハンターの隣に、対照的な体格の男性ハンターが立っていた。まだ二十歳にも満たない、少年のような小柄な体はカゲよりも細い。
 小麦色の肌と真っ白な髪の毛、長い白のまつ毛が覆う瞳は氷のように透き通った青。防具は黒を基調とした、コートの縁を紫色が彩る【ケチャZシリーズ】だ。モーナコはこの二人と知り合いのようでトコトコと駆け寄るが、その背後でユキモリが首を傾げた。

「【トラフズク】さんも、どうしてここに?」
「トラ君の【封龍剣】を強化するのに必要な【いにしえの巨龍骨】を探しにね。ベースキャンプで見かけたイカダは何だろうと思ったけど、モンニャン隊のものだったとは」
「あいつ、じゃま」
「野良モンスターと遭遇することも想定外だね。ここにもいにしえの巨龍骨があるはずだから、ちょっと退いてもらうよ」

 ハビエルが抜いた武器は主に鉱石を素材としたスラッシュアックス【ディズオブアーム】。トラフズクも封龍剣【超絶一門】を構えるが、細身の体に合わせて軽量化された双剣は刃が薄く、また逆手に持っているため刃が地面に向けられている。主の仲間に双剣使いがいるユキモリが、その構えに首をかしげた。

「独特な持ち方ニャ」
「トラフズクさんはスピードで攻めるんですニャ。素早く何度も斬りつけることでダメージを与えていきますニャ」
「僕の旦那と似ているニャ。気が合いそうかはさておき」
「ボクらも戦いますニャ! ユキモリ、行きましょうニャ」
「御意ニャ」

 各々が武器を構えイララを取り囲む。その時、ハビエルの隣に立っていたエールがグルグルと喉を鳴らし、突然身を仰け反らした直後に低く身構えた。地面に突き立てられた二本の前足にはいつの間にか鋭い爪が付いたグローブが装着されている。目には炎のような闘志が灯っているようにすら見えた。

「あれは【ビースト変化の技】ニャ。獣を宿すが如く野生的になる特殊な技ニャ」
「ユキモリは物知りですニャ、ボクにはわからなかったですニャ」
「狩人が狩技を会得したのと同様、僕らも新たな術を開発しているのニャ」
「ハビエルの前で情けない姿を見せてしまったニャ……乙女の怒り、思い知るニャ!」

 突進をするように飛び出し、鋭い爪を振り回す。イララも尻尾を振るって反撃するが後方に宙返りをして回避した。その背後ではトラフズクが封龍剣で舞うように後ろ足めがけ攻撃をしており、二人の連続攻撃にイララの怒りが爆発したのか撥水甲を鳴らすと口を開いて騒音の如く咆哮を発した。
 ビリビリと大気を震わせて防音の術を習得しているモーナコ以外の動きを封じると、即座に地面に潜っていく。どこからか浮上して攻撃を仕掛けてくるのかと周囲を警戒したが、現れる気配は無い。どうやら遊ぶのはやめにしたようだ。武器を背負い、張り詰めていた緊張感を解く。

「おっさんの出番無しか。いい攻撃だったよ、トラ君。エールも」
「ニャ、ニャ~。照れるニャ~」
「ハビエル、このホネ」
「ん、これがいにしえの巨龍骨か。必要数は手に入ったからおっさんたちは帰るけど、君たちはどうするんだい?」

 女を捨てた戦士と豪語するいつもの姿はどこへやら、ハビエルの近くでもじもじしているエールをよそにハビエルは唯一の知り合いであるモーナコに問いかける。モーナコはシフレを見やると、彼女は満足そうに笑った。もう心残りは無いらしい。

「ボクらも目的は果たしましたニャ。後はリククワに帰りますニャ」
「そうか。ベースキャンプで少し暖まってから帰るつもりなんだけど、少し休んでいくかい?」
「モーナコ、帰りにもまた寒風を浴びるからボクらも暖まるべきニャ」
「わかりましたニャ。エールのためにもちょっとだけ休みましょうニャ」

 明らかにハビエルに好意を向けているエールを気遣って同調したモーナコの答えに、シフレとユキモリもベースキャンプへ向かうことにした。



 火を起こして小型の鍋に入れた水を沸騰させる。シュンシュンと音を立てたのを聞くと、ハビエルは二つの木製コップに湯を注いだ。コップには茶色い粉が入れられており、湯に溶けると香ばしい匂いが辺りを包み込む。そこへミルクとハチミツ、更に冷ますためか氷も加えた。
 そのコップをトラフズクに手渡していると、興味津々に眺めるオトモアイルーたちに気がついたハビエルは自分用に淹れたコップの中を見せた。ミルクを入れたことで淡い茶色になっている。

「【七色タンポポ】の根を焙煎したコーヒーの粉を入れたんだ。ミルクを入れるとまろやかでおいしいんだよ。みんなにはミルクでいいかな。舌を火傷しないよう、少しだけ温めるから」
「ありがとうニャ、初対面のワタシたちの分まで」
「ハビエルがボクに飲み物を……ハニャァン」
「モーナコ殿、エール殿のあの豹変ぶりは何ニャ。まるでマタタビ爆弾を受けたみたいニャ」
「エールはハビエルさんがお気に入りなんですニャ」

 コロコロと表情を変えるエールに面食らったユキモリだが、モーナコの答えにひとまず納得しておくことにする。そして、先ほどからずっと気になっていたことを指摘した。

「ところで、トラフズク殿は女性なのニャ?」
「いきなりどうしたニャ。トラ坊は今年で二十歳になるオトコニャ」
「それなら、どうして女性用の装備を着ているニャ。女性の格好をするのが好きニャ?」
「……ニャ?」

 オトモアイルーたちの視線が一斉にトラフズクに向けられる。小タルを椅子代わりに腰掛けるトラフズクの装備をよく見ると、コートの下の衣服は太股が露出しているスカートだった。もちろんその下にはショートパンツをはいているが。
 ユキモリに質問をぶつけられ、ハビエルが困ったように笑った。

「見ての通り、トラ君は小柄だろう? 男性用のサイズが最小のでも合わなくて。それでやむなく女性用のデザインを着ているんだ」
「うごきやすいけど」
「トラ坊は気にしていないみたいニャ」
「そうなんだよね……そうだモーナコ、良かったらリククワの人たちにこのコーヒーを渡してもらえないかな。もし気に入ったら商人に仕入れるよう頼めばいい」
「おいしいの、おすそわけ」
「ありがたくいただきますニャ」

 蓋をしっかりと閉めた瓶を受け取り、ポーチに入れる。ハビエルたちはそろそろ出発するようで、トラフズクが焚火の消火をしていた。

「そうだ、ミサさんのキャラバンにも届けようかな。カフェインが含まれていないし、体を温める効能もあるから妊婦さんにもおすすめなんだ」
「ワカ坊のお姉さんにも気を遣うハビエル、なんて優しいのニャ……」
「エール、目がハートニャ」
「見ていて飽きないニャ。見事な顔芸ニャ」
「みんな、世話になったね」
「こちらこそ、ごちそうさまでしたニャ」

 二人と別れたオトモアイルーたちはイカダに乗り込む。潮の流れが良くなり航海が順風になったところで、ユキモリがポーチからあるものを取り出した。それに気がついたエールが真っ先に反応する。

「何ニャ? それは」
「さっきの水蛇竜の尻尾からぶんどってきたニャ」

 それはイララの撥水甲のかけらだった。手裏剣の応酬の時に掠め取ったらしい。装備の素材にするには小さいが、主への手土産にするつもりなのだろう。

「みんな、本当に今日はありがとうニャ」
「シフレ殿が満足したのなら、お安い御用ニャ」
「困ってる仲間を助けるのもオトモアイルーの勤めニャ」
「ユキモリ、エール……」

 自分をここまで連れ出してくれたモーナコたち、そして相談を聞いてくれた上にリククワの住人に見つからないよう外へ出る手はずを考えてくれたアイとハリーヤにも感謝しながら、シフレは遠ざかる山脈を眺める。心がかき乱されることは無かった。



 リククワに戻ると、風邪をひいて寝込んでいるワカにモーナコが驚き、エールはエイドに看病を手伝うよう指示され、ユキモリはカゲに手土産を渡し礼を述べられるも無断で勝手に動き回らないようにと諭された。
 シフレはアイとハリーヤに事の顛末を話し、感謝の言葉を述べるといつか必ずここへ戻ってくると信じているリュカの部屋の掃除を始めたという。
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